(文・撮影=布施鋼治)
「大学に湯元健一監督が就任し、ウチは本当に変わりました。一言でいうと、楽しんでやるレスリング。時間がたつにつれ、湯元イズムをどんどん注入されていると思います」
そう語るのは、大体大浪商中学校・高等学校レスリング部の西尾直之監督だ。
「湯元監督は、パリ・オリンピック男子フリースタイル65㎏級決勝で清岡幸大郎選手が、これからディズニーランドに行くような楽しそうな雰囲気で決勝のマットに向かったという逸話を生徒たちの前でしてくれました。土壇場でガチガチと緊張するのではなく、ワクワクしているからこそ強い。そういう湯元監督の指導の影響もあって、トレーニングの雰囲気はガラリと変わりました。生徒たちも楽しんでレスリングをやっていますね」
大体大は和歌山県との県境に近い大阪府泉南郡熊取町に広大のキャンパスを誇る私立校で、併設された中学や高校との一貫校としても知られている。現在の部員数は大学生12選手、高校生18選手、中学生8選手と、40選手近いメンバーで構成され、基本的に合同で練習している。
取材に訪れた7月中旬は、インターハイをすぐに控える時期。副主将で51㎏級の庵野琥士朗(3年=昨年の全国高校生グレコローマン選手権優勝)は「ウチは中学生や大学生も応援してくれるので、チーム全体で盛り上がっている」と話す。
周囲は大きなダムや池が点在するなど、都会にはないロケーション。そうした地の利をいかさない手はない。「季節によってダム周辺の自然の景色が変わっていくので、走っていても飽きない。練習するにはもってこいだと思います」(庵野)
大阪・堺ジュニアクラブ出身の庵野は、高校から大体大浪商高に入学した。「中高大の一貫校というのも魅力だった。僕が入った年とその翌年は、高校生の部員がたくさん入ることになって、学校対抗戦でも優勝できるかなと思えたことが大きい」
今年のインターハイ学校対抗戦決勝は、自分たちが決勝に行くことを前提として、対戦相手を「日体大柏(千葉)か自由ヶ丘学園(東京)」と予想する。
そんな庵野とともに、インターハイのキーマンとして期待されているのが55㎏級の古澤大和(2年=今年の全国高校戦選抜大会優勝)。「僕は中学生のときから大体大浪商にお世話になっています。きっかけは、幼なじみで125㎏級の長谷川大和(125kg級=昨年の国民スポーツ大会3位)が大体大浪商でやっていたので。『アイツがいるなら俺も浪商でやってみたい』と思い、浪商の進学を決めました」
寮生活を送る庵野とは対照的に、古澤は大阪府茨木市の自宅から通う。「電車で片道1時間半くらいかかる。練習もきついけど、知っている選手や強い選手も多いので楽しい。そういう選手たちと毎日真剣にやり合っています」
インターハイ個人戦では本田正虎(静岡・飛龍高3年)との一戦を、学校対抗戦では大井喜一(千葉・日体大柏3年)との対戦を思い描く。
「まあ個人戦も学校対抗戦も、結局、全員倒さないといけないので、対戦しそうな選手を想定しながら対策を練っています」
大体大浪商は、昨年のインターハイ学校対抗戦では準々決勝で自由ヶ丘学園(東京)を、準決勝で猪名川(兵庫)を、いずれも競り合った末に4-3で振り切った。しかしながら、鳥栖工(佐賀)との決勝では、逆に3-4と僅差で敗れた。今年こそ!
湯元監督の加入で意識改革がされつつある関西の伝統校は、インターハイで悲願の初優勝を目指す。