2025.07.20NEW

【特集】南国・都城市に息づく“レスリングの街”、南九州大が日本の頂点を目指す(下)

上から続く / 取材・撮影=保高幸子》


来年には一部リーグで闘う南九州大選手が見られるか

 復活が浸透し、寮の食事は、アスリートフードマイスター(アスリートと食の知識に関する資格)を持っている竹田監督夫人が担当していて、全国から選手を集められる環境もできた南九州大。経験者も加わってチーム全体の実力もアップし、2024年春季リーグ戦は、二部リーグで優勝した中京学院大に3-4で惜敗しての2位へ。

 今年5月の春季リーグ戦も2位。3-4で敗れた同志社大に勝っていれば5勝1敗で並び、優勝の可能性あるところまで迫った。

▲市や企業の支援を受け、世界へ飛び立つ南九州大レスリング部

 今年7月5~6日に大阪府堺市で行われた西日本学生新人選手権では、男子フリースタイル97kg級で髙橋秀誠(秋田・秋田商高卒)と男子グレコローマン77kg級で内野四恩(相撲から転向)が、同大学としては2001年の裾分隆仁以来、24年ぶりに優勝し、3位も2人。下級生も順調に育っており、早ければ来年には一部リーグで闘う同大学選手の姿が見られそうだ。

 女子の強化も順調。68kg級の持永聖愛(大阪・堺リベラル高卒)が昨年のU20のアジア選手権と世界選手権に出場し、12月の天皇杯全日本選手権では、3位に入賞。これは同大学から初の全日本選手権の表彰台。今年4月のジュニアクイーンズカップU23と明治杯全日本選手権では2位へ。敗れたのは、ともに石井亜海(クリナップ)で、パリ・オリンピック代表を最後まで争った選手とはやや実力差があったが、今後、差を縮めたいところ。

▲南九州大から初めて全日本の大会で銀メダルを手にした持永聖愛(左)=撮影・矢吹建夫

 76kg級の新人、吉田千沙都(三重・白山ガールズ出身)がジュニアクイーンズカップU20で2位となり、今月のU20アジア選手権(キルギス)で銀メダルを取るなど世界への飛躍も始めている。西日本学生リーグ戦・女子の部では3季連続3度目の優勝をマークするなど、西日本女子の雄を目指す道も順調だ。

信条のひとつが「地域とともにレスリングを盛り上げる」

 この間の2022年西日本学生秋季リーグ戦では、選手経験のない女子マネジャーの津曲紗里菜(つまがり・さりな)さんが審判でデビュー(関連記事)。日本レスリング界の懸案ともなっている女性審判員の育成にも貢献。「レスリングの街」からの引き続きのレスリング界への貢献が期待される。

 竹田監督の信条のひとつが、「地域とともにレスリングを盛り上げる」。マット上での結果とともに、この方針も徐々に実現。近くの温泉浴場が格安の料金で入浴放題の支援をしてくれたり、BBQ大会をやるとなれば肉の提供があるなど、地元の企業からの支援・応援もかなりできてきた。

 企業側から「あそこのレスリング部員はいい子だよ」という評判が出て、それが選手の発奮材料となり、生活の規律正しさとなり、大学のレスリング部への評価も上がっているという。キッズから同じ場所で練習しているので、大学生には見本となるよう練習姿勢を求めており、いい形で回転しているそうだ。

▲ときに笑顔も出る練習

都城西高校に続き、都城東高校(現櫻美学園高)にも創部

 宮崎県自体は、長友寧雄さんが1976年モントリオール・オリンピックのグレコローマン74kg級代表となり、時に全日本王者も誕生。現在の都城西高校の長尾勇気監督が宮崎工高時代に高校三冠王者(全国高校選抜大会、インターハイ、国体)に輝くなど、シニア、高校生を問わずある程度の実績をつくってきた。

 都城市での一貫強化の端緒となったのが、1996年にWellness Kids 都城レスリングクラブ(中石義洋代表=1991・92年に全日本学生王者)が発足したこと。やや間が空いたが、2016年に、難関国立大に進む生徒もいる進学校の都城西高校に長尾勇気監督がレスリング部を創部し、地元のキッズ選手を受け入れる体制ができた。

 2023年風間杯全国高校選抜大会の個人対抗戦では3選手が3位に入賞する快挙(関連記事)。その一人の前原晟人(60kg級)がU17世界王者に輝きいた。

 2024年には都城東高校(現櫻美学園高=所在地は隣の北諸県郡三股町にレスリング部ができ、山梨学院大~自衛隊で活動していた鴨居正和(2015年世界選手権5位)、至学館大~ジェイテクトで活躍した松雪成葉(2022年U23世界選手権2位)の選手実績十分のコーチが教員となって指導にあたっている。南九州大の竹田監督が自身の監督就任とともに東京から連れてきた小此木仁之祐が2023年U17世界選手権51kg級で3位に入賞し、早くも結果が出た。

▲高校のコーチだが、大学選手の指導もする鴨居正和コーチ

▲世界トップレベルの技術指導をする松雪成葉コーチ

今年3月、2人のオリンピックの金メダリストが来場

 南九州大と2つの高校は、ほぼ毎日合同で練習し、週1回はキッズクラブも加わる。全世代の選手が集まって練習する地域は、全国でも珍しい。今年3月には三恵海運の総監督も務める西村盛正氏のつてでパリ・オリンピックの金メダリスト(日下尚、清岡幸大郎)が来て指導し、“チーム都城”の結束は強くなるばかり。

▲西村盛正氏の斡旋で金メダリストの指導機会を得た“チーム都城”(2025年3月)

 今年後半の目標は、全日本学生選手権での上位入賞であり、秋季リーグ戦での一部昇格。長期的には、世界で活躍選手を多く輩出すること。「その向こうには、もちろんオリンピック選手の輩出があります」ときっぱり。

 同大学の理念は「豊かな自然と温和な気候に恵まれた南九州の環境のなかで、創造性に富み、人間性と社会性豊かな人間を育成するとともに、食・緑・人に関する基礎的、応用的研究をすすめ、専門分野において社会に貢献寄与できる人材を育成する」

 ここに「地域への貢献」を加えて活動するのが竹田監督。全世代が一丸となっての「レスリングの街」づくりは始まったばかりだ。50年近く前、南国に西村氏が蒔いて育てた芽は、全世代の一貫強化とともに世界へ飛躍するまでに成長している。《完》

▲U20アジア選手権2位の吉田千沙都。叔母(吉田沙保里)の記録にどこまで追いつけるか

▲キッズから大学生が一致団結し、世界を目指す