2025.07.14NEW

【直言! 過去・現在・未来(10)】「大麻クッキー」とは何だ! 読売新聞の暴挙に、徹底抗議するべきだ!

(編集長=樋口郁夫)

 本コラムに掲載した協会理事の在位期間についての「ガバナンスコードを守るべき」との主張は、例外規定を理由に、「一期のみ」(木村晃一・協会顧問弁護士)との条件で評議員会を通った(関連記事)。例外規定も、立派な規定。組織決定された以上、ちゃちを入れることはしない。富山体制の最後の2年間を熱く応援したい。

 ただ、代わるべき若手が見当たらないことも、世代交代が進まない原因のひとつだ。上がつかえていて、あるいは上から押さえつけられていて、あきらめの気持ちがあるのかもしれないが、そこを突き破る若手が出現してほしい。「もう、あなたたちの時代ではない! 若い集団でやります」という気概を持つ若手が出てくるよう叱咤激励し、世代交代がスムーズにいくように協力したい。

 そのことに関連して、現在の理事選び、会長選びに問題があると提起しようとしたが、ゆゆしき問題が起きたので、それは次回に回す。今回は山梨学院大レスリング部で起こった一件に関して、読売新聞の見出しがひどいと感じたので、日本レスリング協会は断固たる姿勢で抗議するべきだ、との主張を展開したい。

読売新聞の第一報に違和感あり

 発端は7月6日に読売新聞が報じた「『大麻クッキー』食べ転落 山梨学院大レスリング部員」という記事だ(注=同日のネット記事は「『大麻成分入りクッキー』食べて飛び降り、頭の骨を折る大けが…山梨学院大レスリング部員」と見出しが違っている)。

▲読売新聞の紙面に使われた「大麻クッキー」という文字(左が7月6日、右が7日の紙面)

 山梨学院大で大麻にからんだ何かがあったらしい、といううわさは6月上旬ころ耳にしていた。そのあと、国士舘大・柔道部、天理大・ラグビー部、専大・柔道部で大麻に手を出して逮捕者が出たというニュースが続き、この見出しを見たとき、「ついにレスリング界にも来たか…」と思った。

 内容を読んでみると、「大麻成分を含むとみられるクッキー」「合法」などという言葉が並び、一連の大麻事件とは性質を異にすることが分かった(関連記事)。後で分かったことだが、大学には取材しているものの、同大学レスリング部のスタッフには一切取材していない。その取材手法に、ジャーナリストの一人として「それでいいのか」との思いはある。

 別のサイトでは、弁護士のコメントとして「学生が飛び降りた原因が『高揚する成分』入りクッキーの影響であると断定することには慎重な姿勢であるべきです。報道によれば、違法薬物は検出されていないため、少なくとも人体に強い影響を与える違法薬物が含まれていた可能性は低いと考えられます」「まるで怪しげな成分が入っているかのような印象を受けてしまいますが、たとえばアルコールやカフェインも、広義には『高揚する成分』に該当します」との記述があり、もっと慎重な記事が望まれるケースだと思う。

 翌日の記事は「山梨学院大 10代飲酒も レスリング部『大麻クッキー』調査で」(新聞=ネットもほぼ同様の見だし)、翌々日はネット記事のみで「『大麻クッキー飛び降り』、山梨学院レスリング部が東日本学生選手権の出場辞退」となっている。

「大麻」と「山梨学院大レスリング部」を結びつける意図の見出しか?

 記事については、いずれも「大麻成分を含むとみられるクッキー」と正しく書かれているが、見出しが最初のネット記事のみ「大麻成分入りクッキー」で、あとは「大麻クッキー」という言葉。こうなると、「大麻」と「山梨学院大レスリング部」を結びつけたいという悪意があるとしか思えなくなってくる。

 ネットでの最初の記事の下にある「合わせて読みたい」では、「【写真】違法な大麻クッキーという記事の見出しがあり、リンクしてみると、2023年7月4日に「大麻が練り込まれたクッキーを知人から受け取ったとして、大麻取締法違反に問われた兵庫県芦屋市の占い師の女(69)に有罪判決が出た」という同紙の記事。大麻が練り込まれたクッキーを「大麻クッキー」と表現している。

▲2023年7月に読売新聞が報じた「大麻クッキーで有罪」の記事。今回は、逮捕者もいなければ、警察も「違法性はない」と断言している

 ならば、今回の一件を「大麻クッキー」という表現をするのはおかしく、「大麻」との関連性を強調して人目を引こうとする意図が感じられる。ネットのない時代から、見出しを見て大まかな内容を推測し記事を読まないことは普通にある。そんな人たちは、「山梨学院大のレスリング部も大麻か…」と思う可能性は十分にある。

 世の中には、問題にするほどのことではない“誇大見出し”は数多くあるが、今回は山梨学院大でレスリングに打ち込んでいる選手に濡れ衣を着せる見出し。こんな暴挙を許しておいてはならない。

「レスリングへの冒とく」とは思わなかったのか?

 協会幹部や理事の方々は「レスリングへの冒とく」思わなかったのだろうか(見ていないのなら、ぜひ見てください)。私は記事を書いた甲府支局に電話したが、「こちらでは答えられないので広報へ」との答。広報に電話すると、「メディアの取材でしたらメールでお願いします」とのことだったので、11日(金)午前、下記のメールを送りました。

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読売新聞広報御中

先ほどお電話しました「レスリング・スピリッツ」の樋口です。
https://wrestling-spirits.jp/
取材でお伺いします。貴社のサイト7月6~8日、3回にわたって山梨学院大レスリング部の記事が載っています。

「大麻成分入りクッキー」食べて飛び降り、頭の骨を折る大けが…山梨学院大レスリング部員」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250705-OYT1T50141/
山梨学院大のレスリング部、10代の飲酒も発覚…「大麻クッキー」問題の調査で
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250707-OYT1T50002/
「大麻クッキー飛び降り」、山梨学院レスリング部が東日本学生選手権の出場辞退
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250708-OYT1T50132/

最初こそ「大麻成分入りクッキー」としていますが、以後2回の記事は「大麻クッキー」です。この表現は不適当ではないでしょうか?
中身を読まずに見出しだけを見た人は、山梨学院大レスリング選手が大麻に手を出したかに解釈すると思います。

社会の公器としての新聞で、この見出しはないのではないでしょうか?
貴社のご見解をお聞きしたいと思います。(取材ですので、当サイトで記事化する可能生はありますので公式見解をお願いします)

まだ協会幹部とは話していませんが、協会には、読売新聞への抗議、見出し訂正とお詫び記事掲載を申し入れるよう伝えるとともに、記事審査室へ審査のお願いを進言するつもりです。

なお、下記は今回の事件を取材した私の記事です。参考までにお読みください。

「大麻」ではなく「リラックス効果クッキー」…山梨学院大レスリング部での飛び降り事件
https://wrestling-spirits.jp/2025/07/09/269926/

ご回答、よろしくお願いします。
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「いわれのない中傷」と真っ向から闘うのが協会の使命だ!

 土・日曜日がはさまったこともあるだろうが、現在までに回答はない(回答がありましたら、本コラムで掲載します)。その回答とは別に、日本レスリング協会は読売新聞に断固として抗議するべきだ。選手に降りかかっている「いわれのない中傷」と真っ向から闘うのが、協会の使命のはず。選手の気持ちを考えたなら、何もしないことはありえないでしょう!

 その場合、単に読売新聞にのみ抗議文を送るのではなく、すべてのメディアを集め、抗議文や見出し訂正依頼の文書を見せ、抗議の実行を知らせることが必要だ。なぜなら、全国的に誤解を解く必要がある事態となっているからだ。

 読売新聞の記事を後追いしたメディアは、「リラックス効果クッキー」(共同通信)、「大麻成分入りクッキー」(朝日新聞)、「大麻成分入り菓子」(NHK)、「大麻草の成分を含むとみられるクッキー」(TBS、テレビ山梨)、「大麻成分入り菓子」(テレビ朝日)など、事実である見出しが主流である一方、産経新聞など共同通信の加盟新聞社やテレビ朝日の記事を使っているABEMA TIMESなど「大麻クッキー」と表現しているメディアも多い。

 マスコミは横にらみする(競合他社の動きに合わせる)臆病なところがあるので、第一報を報じた読売新聞が書いているから、との理由でつけた社もあると思う。協会と読売新聞の間だけのやりとりでは済まない事態になっていることを考えれば、内々で済ませる問題ではない。

 とにかく、選手の気持ちに寄り添った対応をお願いしたい。そうした積み重ねが、協会と現場との信頼関係につながっていくのだと思う。ここで何も行動を起こさなければ、協会は現場から信頼されず、マスコミから甘く見られ、また同じような悲劇、犠牲者が出てくる。行動を起こし、見出しを訂正させるべきだ。

 最後に、山梨学院大の選手には「このことを乗り越えて頑張ってほしい」と伝えたい。この裕福な時代に、こんなにきつく、しかし、こんなに素晴らしいスポーツに打ち込んでくれる選手を、私たちは絶対に見捨てない。言われのない中傷に負けることなく、マットの上で情熱を傾け続けてほしい。

(注)7月9日既報の通り、未成年選手の飲酒については山梨学院大レスリング部もその事実を認め、処分に従う旨を明らかにしています。現在、東日本学生連盟、全日本学生連盟、日本協会の間で対応を協議中であり、正式に決定しましたらお知らせします。

過去記事

■2025年6月23日:(9)見識が問われる評議員会、ガバナンスコード違反の理事会案を毅然として却下するべきだ!
■2025年6月9日:(8)「密室政治」で会長を決める日本レスリング協会に、未来はあるのか?
■2025年5月17日:(7)「正論」は必ずしも正しくない! 「選手救済」のルールづくりを
■2025年4月24日:(6)99パーセントの努力で手にしたオリンピック金メダル、“努力した天才レスラー”小林孝至
■2025年4月08日:(5)男子グレコローマンのルール改正案に思う
■2025年3月12日:(4)味わい深い言葉が出てこそ一流選手! 話ができない選手は主役になれません!
■2025年2月20日:(3)日本のスターじゃない、世界のスターを目指せ! Akari FUJINAMI
■2025年2月05日:(2)「絶対に見返してやろうと思っていました」…結果を出し、本音をずばり言ってきた権瓶広光君(当時専大)
■2025年1月21日:(1)「あの記事、くだらないですよ!」…胸に突き刺さったオリンピック金メダリスト二世の言葉