2025.07.08NEW

【特集】60年にわたって2校が共存! 名物「手延そうめん」をアピールする日が来るか…長崎・島原高&島原工高(上)

 高校の選手数が減って県庁所在地でもレスリング部のある高校が2校ある市は、そう多くない。地方都市にいたってはさらに少ないが、長崎県島原市は2校が60年にわたって存在している希有な市だ。1969年長崎国体向けて、1965年に創立された島原高校島原工業高校が、ときに全国大会の上位選手を生みながら共存している。

 取材日、島原高校のレスリング場がLED工事で急きょ使用できないことになると、すぐに島原工業高校との合同練習に切り替えた。島原高のOBが島原工高で練習相手を務めたり、その逆のケースも珍しくないという。チームを全国の雄に育てた佐賀・鳥栖工業高校小柴健二監督も、鹿島実業高校に赴任したあとは毎週のように出げいこに訪れ、実力アップをはかったのが島原の2校だ。

 全国から強豪を集める環境にはなく、高校に入学してからレスリングを始める選手が多いので、キッズ・レスリング全盛期の現在、ハンディはあるが、九州のレスリングを発展させるには欠かせない伝統校を追った。(取材・撮影=保高幸子)

▲同じ地で60年に渡って切磋琢磨する島原高校&島原工業高校


有数の進学校、「文武両道」が校是…島原高校

 レスリング界で文武両道を貫く高校と言えば、長崎県有数の進学校の島原高校が挙げられる。校是が「文武両道」。生徒の半数以上は国公立大へ進学し、偏差値「63」は県の公立高校で5位。レスリング部も練習のために勉強をおろそかにすることは許されない(関連記事=日本協会HPより)。

 日体大~自衛隊で活躍し全日本王者を経て世界選手権出場の経験のあるOBの松坂誠應さんは、かつて「赤点を取って追試を受けるようになったら、試合に出られないこともあります」と話していた(関連記事)。

 創部したあと、長崎国体へ向けての強化が実り、1966年インターハイで下田正二郎(山梨学院大元部長)が2位に入賞。1980年代には部員が40人近くもいて、県高校総体9連覇という快挙も達成している。

 その後、浮き沈みを経て、2014年の地元開催のインターハイへ向けての強化が実り、2011・12年インターハイ学校対抗戦3位などの成績。2019年には島原クラブ出身の吉武まひろ(現長崎県協会)がインターハイで優勝し、日体大へ進んでアジア・チャンピオンへ飛躍。昨年、南島原クラブ出身の小川大和(現日体大)がU17世界王者&インターハイ王者に輝くなど、強豪選手を輩出している。

▲就任4年目を迎える島原高・伊藤優監督

 2022年に就任した同高OBの伊藤優監督にとって、小川は赴任とともに入学した選手。選手の強化に手応えを感じ、さらなる強豪選手の育成と学校対抗戦での上位入賞、そして優勝が今後の目標となるだろう。

2年連続全日本大学2位の吉田奨健(帝塚山大OB)が練習に参加

 今年2月の全九州高校新人選手権の学校対抗戦では9年ぶりに3位入賞。3月末の風間杯全国高校選抜大会では、北信越予選2位の上田西(長野)を4-3で下して初戦突破。2回戦で、優勝することになる文化学園大杉並高(東京)相手に粉砕したが、全国一のチームとの闘いを経験したことは、今後に役立つはずだ。

▲チャンピオン・チームに挑んだ3月の風間杯全国高校選抜選手権。この経験を生かせるか(青が島原の稲本康紀。相手は文化学園大杉並の安威永太郎)

 現在の部員は11人(他にマネジャー1人)。同監督は「全員が県内出身。高校へ入ってからレスリングを始めた選手が4人いて、小学校のときにやっていて中学で空いた選手もいます」と説明。「初心者とキッズ経験者が混在しているので、その選手に合わせた練習を心がけています。伝え方が大事ですね」と言う。OBでもある内田守文副顧問が、部員一人ひとりを温かく見守り、いつも優しく声をかけてくれるそうだ。

 1日の平均練習時間は2~3時間。全日本やアジアを制し、今年はU23世界選手権・女子72kg級の代表になった吉武まひろ(前述)がほぼ毎日参加してくれるほか、この4月から、西日本学生王者を経て2023・24年に全日本大学選手権92kg級で2位に入賞した吉田奨健(今年3月に帝塚山大を卒業=現役復帰予定につき敬称略)が週1~2回だが練習に参加してくれることになった。

▲シニアのアジア・チャンピオンに輝き、U23世界選手権の優勝を目指すOGの吉武まひろ

▲赴任先が島原で、練習に参加することになった2年連続大学2位の吉田奨健。高校生の熱に接し、現役復帰を視野に入れる

 岐阜県出身の吉田は、就職先の赴任地が島原となり、知り合いの同高OBを通じて練習への参加を希望。伊藤監督は「現役ばりばりだった人の参加はありがたい」と即答でOKし、重量級の練習相手を務めてくれることになった。大きな体だが、「選手への接し方は細やかで、チームにいい雰囲気をつくってくれる」と言う。

 吉田は「インターハイで少しでもいい成績を残してほしい。それに貢献できればうれしい」と話す。社会人になったのを機に第一線を退く気持ちでいたが、高校生との練習の中で、まだ燃え切れていないエネルギーを感じ、限られた環境の中で、もう一度全日本選手権のマットを目指す気持ちが芽生えたそうだ。

 世界レベル、全日本レベルの選手の存在は、選手の刺激になることは間違いあるまい。

文武両道を実践した伊藤優監督、インターハイ王者を育てる

 今年のインターハイ(7月27~30日、島根県雲南市)は、学校対抗戦の出場を決めている。「去年は初戦敗退でしたので、まず1勝が目標です」と言う。

 今年6月の九州高校大会は、2勝したあとの準決勝で鳥栖工に敗れ、全国トップには高い壁を感じるのが現状。「(鳥栖工は)上すぎる存在で、打倒を考えるのもおこがましいです」と、一朝一夕で追いつく相手でないことは十分に理解している。いきなり高い山を目指すのではなく、「まず自分たちのスタイルを確立させることが大事だと思います」と、一歩一歩進んでいくことを口にする。

▲高校入学後にレスリングを始めた選手も多いチーム。一歩一歩進んでいく

 進学校として勉強も一生懸命にやらなければならないが、高校生なら当然で、将来のためにも必要なこと。今は「スポーツができれば、それでいい」ではなく、文武両道を目指す選手や保護者も少なくない。「それがウチのアピールポイントです」と言う。

 今年3月に愛知県で行われた全国高校剣道選抜大会では、同高男子が初優勝を達成。進学校でも全国王者は不可能ではないことを証明した。もちろん、U17世界王者&インターハイ王者を育てているレスリング部も誇るべき実績をつくり、他のクラブから目標とされる存在だ。

 伊藤優監督は、島原高校時代にジュニアワールドカップ(ドイツ)に出場するなどし、入試の難しい国立大(群馬大)に進学した。オリンピック金メダリスト2人(櫻井つぐみ、清岡幸大郎)を育てたことで一躍有名になった櫻井優史さんの母校の後輩になる。

 そこでも全日本学生選手権3位、全日本選手権5位などの成績を残し、卒業にあたって長崎県教員採用試験に現役合格。離島の学校に6年間勤務したあと島原高校へ赴任。その間、全日本社会選手権優勝という成績も残しており、文武両道の実践者だ。

 したがってレスリングの指導歴は4年で、これからが本領を発揮するとき。レスリング界有数の進学校の躍進が期待される。

▲2011年5月にドイツで行われたジュニア・ワールドカップ(今は実施せず)で闘う伊藤監督=撮影:ウィリアム・メイ

《下へ続く》