「高知をレスリング県に」を目指して開催されたパリ・オリンピック金メダリスト、櫻井つぐみ(育英大助手)と清岡幸大郎(カクシングループ)による体験セミナーとジュニア大会(関連記事1・2・3)は、多くの人が訪れ2人のパワーを感じさせてくれたイベントとなった。普及にも情報を燃やす2人に、イベントを振り返ってもらった。(司会・撮影=布施鋼治)
──まずは6月28日開催のレスリング体験セミナーの感想を聞かせていただけますか。
清岡 笑顔で帰ってくれる子がたくさんいたので、本当にやってよかったと思います。この先、レスリングをやってくれるかどうかは分からないけど、ちょっとでもレスリングは楽しいものだと、子どもたちの記憶に残ってくれたらすごくうれしい。
櫻井 今回は県内だけではなく、県外の方も参加してくれました。正直、ここまで盛り上がる大会になるとは思っていなかったので驚いています。
──定員100人がすぐ埋まったので、慌てて50人ほど増員したと聞きました。
櫻井 その増員分も一瞬で埋まったと聞いています。子供ながらにパリ・オリンピックを見てレスリングに興味を持ってくれたのだと思います。中には「レスリングでオリンピックを目指したい」と考えている子もいたでしょう。自分も地元に戻っていろんな活動をする中で、こうやってレスリングの大会に参加してくれる子が増えることは喜ばしいことです。
──午後に行われた経験者のセミナーは、人数は若干少なくなりましたけど、最後は過酷な20本連続スパーリングが待ち受けていました。
清岡 相手は小中学生なので、「どういうふうにやればいいのか?」という悩みも少々ありました。自分の強さを見せつつ、オリンピック選手を相手にしたときに「いいタックルに入れた」という自信も大事。自分もジュニアの頃、オリンピックに出た選手や、世界のメダリストとやってもらい、「すごく強い。自分もこうなりたい」と思ったことがあります。今回は20人だけだったけど、違うところで、また子供たちを相手に交流できたらいいと思っています。
──20人だけ、という発想なんですね。ポジティブですね。櫻井さんの方は?
櫻井 意欲を持って当たりに来てくれる子がたくさんいました。時間の都合でできなかった子もいたけど、実際に我々とふれあうことは今後にいきてくると思うし、「こうなりたい」と少しでも思ってもらえたら光栄です。
──参加した子供の中にははるばる神奈川県逗子市からやってきた子もいました。
清岡 オリンピックの影響力を実感しています。今回は第1回だったので、第2回、第3回とコンスタントに開催していく中で、もっと規模も大きくなっていく可能性もあります。全国大会や吉田沙保里杯に負けないような規模の大会になってくれたら、レスリング界だけじゃなく、自分たちの故郷である高知県にも何かしら還元できると思います。
櫻井 こういうイベントをやることで高知に人が集まり、レスリング以外でもこの県のよさを知ってもらうことができる。なので、私たちに「教わりたい」、あるいは「試合に出たい」という気持ちで高知に来てもらうことは高知にとってもありがたいことです。自分たちにできることは、きちんと大会を運営することです。一方で、一緒に写真を撮ったりすることでいい思い出を作ってもらい、「櫻井さんや清岡さんのようになりたい」と思ってもらうことだったりすると思う。講習会では技だったり、試合に対する心構えだったりを伝えることで、頑張れるきっかけにもなるんじゃないですかね。
──経験者向けの講習会では、惜しみなく自分の得意技を伝授していましたね。
清岡 わざわざ高知まで来てもらっているので、自分の持っている技をきちんと伝えたかった。実際、僕から「リンクルを習いたい」と思って足を運んでくれた子もいるでしょう。なので、そこは出し惜しみせずやりました。
櫻井 自分は以前にも何回か教える機会があったので、そのコツも少しずつ分かってきました。今後も伝えられることは全て伝えていこうと思っています。今回学んだことは地元に戻っても練習してほしい。
──最終日(29日)の大会の方はどうでした?
清岡 幅広い子供たちが出られる大会だったので、レスリングを続けている子であれば、自分の成長を実感できる大会になったんじゃないですかね。幼児の子たちは自分のことだけで必死だったと思うけど、(別マットで)お兄ちゃんやお姉ちゃんが闘っている姿を見て、「将来、自分もこうなりたい」と少しでも思ってもらえたらうれしい。
櫻井 高知には、自分たちの試合を見てレスリングを始めた子もいます。今日、私はその子たちが初めて試合をしている姿を見ました。自分が子供の頃にやっていたときのことを懐かしく思いました。
──今大会のサプライズは、2人が中学生や小学生を相手に参考試合をしたことです。
清岡 そうですね。(前日に20人を相手にスパーをしたときと同様に)1分ぐらいで、しっかり倒しに行くのか、どういう試合をしてやろうかなっていろいろ考えたけど、せっかくの機会だし中学生と自分たちが試合する機会なんてほかにはない。だったら、いい経験になってもらうように、自分の強さを見せつつ面白い試合になるように努めました。
櫻井 四国の大会では、子供を相手に参考試合をすることは結構あるあるなんですよ。だから初めてではなかったけど、楽しめましたね。試合を通して伝えられることもあるので、機会があればこれからもやっていきたい。
──今回おふたりの動きを見てすごいと思ったのは、キッズ・レスラーからのリクエストにも嫌な顔ひとつ浮かべることなく笑顔で対応していたことです。
清岡 僕はなかなか地元に帰って来られない。つぐみと比べると、四国内の大会に顔を出したりもできなかったし、ジュニアの子たちにもなかなか会えなかった。オリンピックの金メダリストに会う機会はそんなにない。せっかく高知に来てくれたのだから、できるだけのことをやってあげようと思っていました。義務ではないけど、彼らにとっていい思い出になるならば、全然苦ではなかったです。
櫻井 わたしの試合を見て憧れてくれる子もたくさんいて、何回もサインをせがんでくる子もいました。でも、それがうれしい。こういう大会を通して彼らの成長していく姿を感じることができたら最高ですね。ちょっと疲れたら、リポビタンD(アンチドーピング認証を取得)を飲んで乗り切りました(微笑)。