(文・撮影=布施鋼治)
高知をレスリング県に! そんな土佐のレスリング関係者の思いが結実した。6月29日、高知県立青少年センター大アリーナで「第1回櫻井つぐみ・清岡幸大郎杯ジュニアレスリング大会」が開催された。
特色は、幼年の部から中学生の部まで大会出場者が最低でも2回戦えるようにセッティングされていたこと。つまりトーナメントで一度負けても、必ず敗者復活戦が用意されており、もう一度マットに立つことができるようになっている。
このところ地方のキッズ大会にはよくある方式だ。「もっと経験を積みたい」と感じているキッズ選手や指導者にとって、1階級に勝者と敗者それぞれのトーナメントの山が用意されていることは願ったりかなったりだったのではないか
記念すべき高知が生んだ92年ぶりという2人の金メダリストの冠のついた大会だけに、だれもが予想しなかったサプライズも用意されていた。清岡は2試合、櫻井は1試合、それぞれ中学生や小学生を相手に参考試合を行った。
試合後、清岡と戦った愛媛県の平原音翔選手(城南中)は「清岡選手と試合ができるという話を聞いたのは試合が始まるちょっと前」と興奮気味に振り返った。
「やっぱり清岡選手はスキがなく、タックルも入りにくかった。その動きには常にプレッシャーがかかっていて、反応しづらかった。『これがオリンピック選手なのか』と思うしかなかったです。試合の途中からは清岡選手の方から『まだ時間はあるぞ』『諦めるな』と叱咤されながら動きました」
櫻井つぐみの妹でこの大会の女子53kg級で優勝した櫻井つきの選手(高知・高知クラブ=全国中学生選手権50kg級優勝)とともに選手宣誓を行い、中学生男子52㎏級で優勝した大串一夫選手(高知・すくも)は「神奈川県からも選手が来てくれた、地元の大きな大会で優勝できてうれしい」と顔をほころばせた。
「高知県でこういう大会自体が開かれることは、今までそんなになかったので、開かれることだけでもうれしい」
昨夏開催のパリ・オリンピックはテレビで観戦。同じ高知県出身の清岡から大きな刺激を受けたという。「清岡選手がリンクルで一気に返した場面は、すごくうれしかった。『どこまで努力したら、ここまで強くなれるのか』と思いました。最近は清岡選手がよく使っているリンクルを自分でも積極的に仕掛けるようにしています」
大会を運営した櫻井優史・競技委員長は「思った以上によかった」と総括した。「参加してくれた子供たちや保護者の方にも喜んでもらえる大会になったかなと思います。あらためてつぐみと幸大郎の力を感じることができました。2人にとってはオリンピックで金メダルを取るとともに、レスリングを普及させレスリングを通して子供たちに夢を持ってもらいたいというのもゴールなので、それを実践してくれたかなと思います」
1年後、場所は同じ高知県立青少年センターで「第2回櫻井つぐみ・清岡幸大郎杯」が開催される予定。「高知をレスリング県に」という計画は、着々と進行している。