(文=布施鋼治)
梨紗子&友香子(旧姓・川井)の東京オリンピック金メダル姉妹、千春&馨の伊調姉妹、健一&進一の湯元兄弟、惣亮&大地の高谷兄弟、幸大郎&もえの清岡兄妹…。レスリングは姉妹・兄弟で活躍しているケースが多い。
今年9月、クロアチアで行なわれる世界選手権には尾西大河(早大)と尾西桜(日体大)の尾西兄妹が初めてそろって出場することになった。2025年明治杯全日本選抜選手権で大河は男子グレコローマン55㎏級を、桜は女子59㎏級を制し、ともに初めてシニアの世界選手権への出場切符を手にした。
兄の大河は決勝で高橋三四郎(サントリー)を7-1で撃破。第2ピリオド終了のブザーが鳴ると、思い切り雄叫びを挙げた。
「去年は思うような成績を挙げることができなかった。今回の優勝で、自分がやってきた道が正解だったことが証明されたと思ったのでうれしかったんです」
一方、妹の桜は決勝で永本聖奈(アイシン)とのライバル対決を5-0で制した。がぶってから引き倒し、さらに回して徹底的に相手をコントロールする戦法が功を奏した。
永本にほとんど足を触らせなかったことも特筆される。今大会に向け、桜は徹底的にディフェンス面を強化してきたと振り返った。「日体大の女子は田南部コーチが新たに監督になって下さり、本当に熱心に教えてくれています。足を触らせないというのは毎日の練習でも意識して取り組みました。きつかったけど、本当にやってよかった」
晴れて兄弟そろっての世界選手権出場となるが、大河は「それは父の夢だった」と打ち明けた。「今日はひとつ父の夢を叶えることができたと思います」(関連記事)
とはいえ、尾西兄弟としての世界選手権出場は今回が最初で最後になる可能性が高い。現在大学4年生の大河は、来春の卒業を機にレスリングから離れ、一社会人として旅立つ方針を固めているからだ。
「そもそも自分がなぜ早稲田に入学したかといえば、レスリング以外の道も追求したかったから。日本スポーツキャリア協会というところで、引退したあとのことも学びました。今年のシニアとU23の世界選手権で引退して、社会人としてレベルアップしていきたいと考えています」(大河)
桜も兄の立場を敬った。「私がどんどん優勝していくので、“桜のお兄ちゃん”みたいな言われ方をしてきた。本当に苦しい思いをしてきたと思う。でも、最後に2人で優勝できて本当によかった」
今回の世界選手権には峻士と隼士の石黒兄弟も出場する。開催地クロアチアで、それぞれ兄弟パワーを見せつけることができるか。