(文=布施鋼治)
異色の逆輸入レスラーが初の世界選手権へ。6月22日、東京体育館で行われた明治杯全日本選抜選手権最終日に行われた男子フリースタイル57㎏級決勝で、米国を拠点とする坂本輪(CWC=東京・自由ヶ丘学園高卒)が弓矢健人(日体大)を相手に10-0のテクニカルスペリオリティ勝ち。昨年12月の天皇杯全日本選手権も制しているので、プレーオフに進むことなく世界選手権出場を決めた。
「昨日の初戦の動きはあまり良くなかったけど、試合が進むにつれ自分の動きができるようになっていきました」
弓矢のタックルを飛び越えるようにして防いだり、もつれた状況の中でヘッドスプリング(頭をつけた状態で前方に跳ね起きるムーブ)を見せたり、坂本の動きはアクロバチックでクリエイティブな発想に満ちていた。
そのあたりを突っ込むと、坂本は「そんなに他の選手と違うとは思っていないんですけど…」と前置きしたうえで答えた。「力の抜き加減だったり、緩急のつけどころの違いなんじゃないですかね」
とどめを差したのはアンクルホールド3回転。第1ピリオド2分22秒で勝負はついた。テンポがよかったのは、坂本が現在の活動拠点であるオクラホマ州立大がちょうどフリースタイルのシーズンだからだろう。全日本選手権に出場したときはカレッジスタイルの真っ最中。そのときに比べると、「フリースタイルに多くの時間を割いて練習してきたからではないか」と分析する。
「カレッジスタイルと、試合時間も違いますからね(カレッジは3分、2分、2分)」
今年3月末にヨルダンで行われたアジア選手権では2回戦で黒星。その後の3位決定戦でも敗れて5位に終わった。このときの経験から、坂本は「国際大会は雰囲気が違う」ということを学んだ。「メンタル面の問題なんですかね。(マットに立つ)足の感じ方も違っていたので、不思議な感じでした。自分の動きさえしていれば、もっといいレスリングができたのに…」
同じ過ちは繰り返さない。次戦はU20世界選手権(8月17日~24日・ブルガリア)になるが、それまでは日本でしっかりと調整するつもりだ。
「U20を取ったら、アメリカに戻ってデービット・コーチ(2021年東京オリンピック王者)たちと仕上げて世界選手権に臨みます。オクラホマ州には今回の世界選手権出場が決まっている選手がすでに二人いて、もう一人、61㎏級の選手の出場が決まれば(自分も含め)4階級で出ることになります。そのメンバーで頑張っていけたらと思っています」
レスラーとしてのアイデンティティ(存在)はすでに米国にある。今回、会場にはオクラホマで練習する2人の米国人レスラーも一緒だった。「その一人のカーター・ヤングは前回のオリンピック(国内)予選でも最後の方まで残った65㎏級の実力者。今回は僕の練習パートナーのほか、彼らも日本で練習したいということでやってきました」
12月の天皇杯全日本選手権には、パリ・オリンピック金メダリストの樋口黎(ミキハウス)が復帰する予定。樋口-坂本という世代交代を問うビッグマッチは実現するのか。