(文=布施鋼治)
「山梨学院大が強かった。それだけです。次に向けて、また準備していくしかない」
大会後、日体大の松本慎吾監督に総括を求めると、唇を噛みしめるように言葉を絞り出した。5月28日、東京・駒沢体育館で行われた2025年東日本学生リーグ戦最終日。予想通り、一部リーグ決勝は山梨学院大VS日体大の顔合わせとなり、日体大は2-5で敗れた。
初戦の70㎏級で山下凌弥(3年)が冨山悠真(4年)に0-11のテクニカルスペリオリティで落とした星を取り返す形で、第2試合の65㎏級で西内悠人(3年)が荻野海志主将(4年)を5-2で破った。チームスコアは1-1のイーブン。
しかし、その後、125㎏級の甫木元起(2年)、86㎏級の神谷龍之介(3年)が立て続けに黒星。山梨学院大に“王手”をかけられた。五十嵐文彌(4年)が神谷の片足タックルを切った刹那、もつれながらもバックを取り切った攻防は、現在の山梨学院大のしぶとい強さを如実に表した場面だった。
「神谷は後半、五十嵐選手にスタミナを削られ、ポイントを加算されてしまった」(松本監督)
第5試合は57㎏級の弓矢健人(4年)。過去に何度も対戦している勝目大翔(3年)との対戦となり、激しいシーソーゲームの末、4ー7で敗れ、2年ぶりの優勝を逸した。
「お互いに手の内は分かっているので、駆け引きでどっちが点数を取るかという闘いだった。見ている方もヒヤヒヤするような試合だったと思うけど、今日は相手の方が一枚上手だったかな、と」(弓矢)
奇しくも昨年の決勝でも両者は激突し、勝目が今回とほぼ同じスコアの7-3で勝利している。そのリベンジはならなかった。「もちろん、試合前は自分が勝つと信じていました。でも、そういう気持ちも相手の方が強かったのかもしれない」(弓矢)
最終の第7試合では、74㎏の髙橋海大主将(4年)が荻野大河(2年)を11-0のテクニカルスペリオリティで快勝したものの、後の祭り。予選リーグの日体大は磐石の強さを見せて最終日のファイナル・ステージへと進んだが、昨年同様、山梨学院大の壁は厚く、2年連続で準優勝に終わった。
今大会の決勝は、花道を作り、DJによる選手紹介があるなど、「魅せる」ことに工夫を凝らした大会だった(個人的な意見を言わせてもらえれば、入場する選手にスポットライトが当たればもっとよかった)。そういった主催者の努力もあって、今回は各大学の応援もいつになく力が入っていたように思う。
レスリングは個人競技ながら、今回のリーグ戦のような団体戦になれば、チームワークもひとつの力となり、次の選手に「勝利」という名のタスキを渡すことは大きな力になってくる。その点でも、今年の山梨学院大はチームの一体化が感じられた。
いみじくも弓矢は言う。
「技術どうこうでの差は、あまり感じなかった。それこそ、リーグ戦という大会の色に負けたなという感じはします」
今回セコンドに就いたのは、4月から日体大の外部コーチに就任した樋口黎(ミキハウス)と清岡幸大郎(カクシングループ)の2人のパリ・オリンピック金メダリスト。ふだんから指導し、自分の練習も行なっているだけに、セコンドワークも真剣そのものだった。清岡はX(旧ツイッター)で次のようにつぶいた。
「リーグ戦、やっぱりアツかったな。自分ごとのように悔しいけど、今回は相手チームの方が仕上がっていた。両チームとも素晴らしいチームでした」
日体大勢はすでに視線を明治杯全日本選抜選手権(6月19~22日、東京体育館)に移し、名誉挽回を期している。前を向いて歩いていくしかない。