2025.05.31NEW

【2025年東日本学生リーグ戦・特集】“たたき上げ選手”の踏ん張りで流れをつくった山梨学院大、黄金時代再来か!

 2025年東日本学生リーグ戦は、勝ち上がりシステムが変更されて初の大会。最終日の決勝はライトを落とした会場で、スモークの中を代表選手が入場するなどのショーアップを取り入れ、華やかな舞台となった。両チームの応援が盛り上がる中、山梨学院大日体大を破り、前年に続いて栄冠を獲得した。

▲2連覇を達成し、応援席にこたえる山梨学院大チーム

 チームの3勝目を挙げた86kg級の五十嵐文彌が、米国大学への挑戦でチームを離脱した小野正之助の姿がプリントされてあるTシャツを着て応援席の声援にこたえた。4勝目がかかった試合(57kg級・勝目大翔)で、応援席からの大きなカウントダウンとともに優勝の瞬間を迎えたのは、昨年の優勝のときと同じ。今度は、勝目がセコンド席に置いてある大学の幟(のぼり)を持って優勝をアピール。

 本来なら、ともに勝ち名乗りを受けたあとにするべきパフォーマンスだろうが、“お祭り”の盛り上がりの中、目くじらを立てる審判員や役員はいない。この熱狂に水を差してはならないし、止めることのできない熱量が駒沢屋内球技場に充満していた。リーグ戦の優勝には、最高潮の盛り上がりがある。逆に言えば、OBや選手の家族・友人が会場に駆けつけ、盛り上がりを作れるチームだからこそ、栄冠を手にできるのだろう。

▲試合後、日体大・松本慎吾監督にあいさつする小幡邦彦監督=撮影・矢吹建夫

昨年は挑戦者、今年はデフェンディング・チャンピオン

 小幡邦彦監督は、全試合が終わると、前年と同じく日体大・松本慎吾監督のもとへ駆け寄り、深々と頭を下げた。2年連続優勝の原動力は、コロナ禍をはさんでの4年間、この大会と11月の全日本大学選手権で、ことごとく日体大の壁にはね返されたことに他ならない。あの悔しさこそが、黄金時代再現へ向けてのエネルギー。日体大は敵であり、“恩人”でもある。

 小幡監督は、挑戦者として挑んだ昨年と、連覇がかかった今年とでは、選手の気持ち持ち方が全然違い、「当然、プレッシャーはあったと思います。気の抜けない試合が続きました」と振り返った。連覇の“束縛”を解いたのは、第1試合に出場した冨山悠真(4年)。全日本選抜選手権やU23世界選手権を制した山下凌弥を破っての勝利は大きな勢いをつくった。

▲「水車落とし」で有名だったサルマン・ハシミコフ(ロシア)が亡くなったこの日、「水車落とし」で勝ち、チームに勢いをつけた冨山悠真。

 同選手は、茨城・霞ヶ浦高時代は最後の年にインターハイ60kg級ベスト8が最高。山梨学院大に来たあとも、新人戦などでの優勝はあるが、団体戦は強豪先輩がいたため出番は少なかった。昨年までの3年間のリーグ戦出場は5試合で、いずれも“安全パイ”のチームを相手に、レギュラー選手を休ませるための代役(5戦全勝)。

 小幡監督は「腐らず、こつこつと、まじめに練習してきた選手です。あの勝利でウチに流れが来ましたね」と振り返る。たたき上げ(下積みから苦労して一人前になること)で、雌雄決する闘いに初めて臨んだ冨山の踏ん張りは、下級生のときから実績を残してきた同期生に刺激を与えた。

「山梨学院大の勝利です」…荻野海志主将

 偶然にも、チームを支える4年生が第1試合から第4試合まで並ぶ試合順となっていた。4連勝して優勝を決める可能性もあったが、勝負の世界はいつも思う通りにはいかない。第2試合で、昨年優勝の立役者だった65kg級の荻野海志主将が不覚を喫した。

 それでも、冨山の作った流れは途切れていなかった。125kg級のアビレイ・ソヴィット、86kg級の五十嵐文彌(前述)が勝って“王手”。第6試合の61kg級に全日本チャンピオンの須田宝が控えている余裕か、陣営にはこの段階で優勝を確信した雰囲気も。だが、57kg級の勝目大翔(前述)が、優勝を決める“ヒーローの座”を須田から“奪い取り”、全日本王者に頼ることなくチームの勝利を決めた。

▲全日本王者の登場を待たずに優勝を決めた勝目大翔をねぎらう小幡邦彦監督

 昨年の優勝の立役者だった荻野主将は、黒星を喫したことにちょっぴりバツが悪そうだったが、「キャプテンとして、チームの総合力を信じて闘ってきました。確実に言えることは、山梨学院大の勝利ということです。ま、(自分が)成長できる機会だったと思います」と話し、自らが牽引してきた優勝を振り返った。だが、「勝ちたかったですね…」と続け、悔しさもにじませた。

 3月(U23全日本選手権)に負けていた西内悠人にまたも黒星となったのは、個人として今後が心配されるが、「単純に(西内が)強いんです。どんどん強くなっていきます。追いかけなければならない。いや、追いかけるではなく、できるだけ早く抜きます」と、次の対戦でのリベンジを誓った。

 大会全体を通じて下級生も多く起用しており、来年、再来年を見越した采配だったことは明白。リーグ戦でのこのシーンは、何年続くだろうか。その前に、今年11月に全日本大学選手権(大阪)があり、2年連続団体2冠獲得が当面の目標となる。小幡監督は「去年、全日本大学グレコローマン選手権も3位に入っています。こちらも3位以上を目指します」と話し、今シーズンも熱く燃えることを誓った。

▲リーグ戦決勝を闘った選手。今シーズン、どんな活躍を見せるか

▲高橋侑希コーチの胴上げ