王者の強さ、再び-。5月26日(月)~28日(水)に東京・駒沢屋内球技場で行われる2025年東日本学生リーグ戦で、昨年の団体戦二冠(東日本学生リーグ戦、全日本大学選手権)を制した山梨学院大が、万全の強さで2連覇を目指す。
昨年のリーグ戦で日体大の天下にピリオドを打ったのは、3年生の力によるところが大きかった。そのうちの一人、61kg級を託していた小野正之助が米国の大学での挑戦を決め、欠けてしまったが、全日本王者の須田宝が穴を埋めるので、強さはゆるぎない。2013~18年に6年連続優勝を遂げたときに匹敵するほど盤石になりつつあると言えよう。
今年の大会で予想されるメンバーは下記の通り。
57kg級 勝目大翔(3年=2024年全日本選手権2位/2024年全日本学生選手権優勝)
61kg級 須田 宝(3年=2025年アジア選手権優勝/2024年全日本選手権優勝)
65kg級 荻野海志(4年=2024年U23世界選手権2位/2024年全日本選手権2位)
70kg級 冨山悠真(4年=2024年全日本学生選手権2位/2024年全日本選手権3位)
74kg級 安藤慎悟(2年=2024年U20世界選手権3位/2024年東日本学生・秋季新人戦79kg級優勝)
86kg級 五十嵐文彌(4年=2024年学生二冠王/2024年全日本選手権3位)
125kg級 アビレイ・ソヴィット(4年=2024年全日本学生選手権優勝/2024年全日本大学選手権2位)
だが、勝負の世界は何が起こるか分からない。小幡邦彦監督はこれまで、絶対に勝てると思っていた大会を落としたり、内心で「今年は厳しいな」と思っていながら優勝したことを何度も経験済み。「勝負の世界に『絶対』はないので、気を抜けません」という言葉を繰り返し、気を引き締めた。
優勝を目指すだけのチームには、大会に向けて選手の熱が高まりすぎ、それがケガにつながることはよくある。同監督は、その経験もある。今年は、新人選手を含めて控え選手の戦力も厚いので、万が一にも1人、2人の負傷者が出ても動じない強さはあるが、「蟻(あり)の穴から堤も崩れる」(ほんのわずかな不注意や油断から大事が起こること)の言葉もある。「熱の入りすぎる練習をさせない」「試合の前にエネルギーを爆発させない」ことも指揮官に求められる手腕。ブレーキのかけ方はどうか。
一部16校が12校に変更され、いわゆる“安全パイ”が減った。さらに、昨年までは前年の上位校が4つのブロックに分かれて予選リーグを行ったが、今年は2ブロック(各ブロック6校)の予選制となり、予選リーグから競った闘いが展開される。そうでなくとも団体戦では波乱が起こることが多いので、同監督は「出る選手と応援する選手の全員で闘わないと勝てない」と強調した。
これだけの強豪選手をまとめる65kg級の荻野海志主将は、「キャプテンとして、今までにはない重圧を感じています」と王座を守る立場の苦しさを吐露する一方、「自分はかなり成長している、という自信があります」とも話し、緊張の中にも勝利への手応えを感じている。
昨年は自身の勝利でチームの優勝を決め、今年もエースの活躍が期待される立場。だが、「蟻の穴」の言葉を最も心しなければならないのは、荻野主将かもしれない。最大の敵と目される日体大の65kg級には、西内悠人(3年)の出場が予想されるからだ。西内には昨年の全日本学生選手権と今年3月のU23全日本選手権で敗れており、相性はよくない(その間の全日本大学選手権では荻野が勝利)。
荻野は「負けは負けなんですけど、自分にとって学生時代の大本命(最も大きな目標)がリーグ戦です。前回の負けは、まったく気になっていません」と、過去の対戦成績は関係ないとの姿勢を見せる。しかし、西内は国際舞台でも実績を残している選手なので、簡単に勝てる相手ではない。エースがこけたら、蟻の一穴が大きな穴になってしまう可能性もある。負けるわけにはいかない。
「総合力でまさっていても勝てないことがあるのが、勝負の世界です。全員、特に4年生は命がけで闘います」と話したあと、「(副主将の)五十嵐とよく話すのですが、キャプテンと副キャプテンが負けたら、チームスコアで勝っても、それはチームの負けだと思います。そうならないように、死ぬ気で闘わせてもらいます」との決意を話した。
荻野を助ける86kg級の五十嵐文彌は、埼玉・埼玉栄高から荻野と同じコースを歩み、2022年にともに1年生大学王者に輝いた選手。2023年には2人でU20世界選手権に出場、昨年は団体戦二冠獲得の原動力となった。「2年連続で団体二冠制覇を目指します」と、今年も2人でパワーを発揮し、団体二冠獲得を目指す。
日体大はエースの髙橋海大(4年)を五十嵐にぶつけ、主力を崩して強固な“山梨王国”の壊滅を目指してくることが予想される。髙橋は86kg級で闘った経験はないが、昨年、74kg級でアジア選手権とU23世界選手権を制覇。79kg級で全日本選抜選手権を勝ち抜き、シニア世界選手権にも出場した選手。日体大では86kg級全日本王者の白井達也(佐賀県スポーツ協会)、同2位で兄の髙橋夢大(三恵海運)に引けをとらない練習を積んでいる。
昨年11月の全日本大学選手権は86kg級にエントリーされており、日体大は「海大なら五十嵐に勝てる」と見込んでいた(髙橋がU23世界選手権での負傷のため棄権し、実現せず)。今大会のエントリーは「74kg級=髙橋海大、86kg級=神谷龍之介」だが、髙橋に打倒五十嵐を託すのではないか。
それは五十嵐も承知済み。「去年の11月に闘う予定でした。そのとき『彼に勝っているのは体重だけですから』と言っていますよね(関連記事)。過去の成績など、すべてで負けています」と話し、挑む立場であることを強調。エントリー通り、神谷龍之介が起用されても、彼は2年連続の全日本チャンピオン(79kg級)であり、「やはり格上の選手。どちらと闘うことになっても、胸を借りる闘いになります」と、チャレンジ精神での闘いを強調した。
悲壮な決意を口にした荻野主将と対照的に、「副主将ですから、海志よりは伸び伸びと闘えます」と話し、リラックスを武器にして闘う腹積もりだ。
荻野、五十嵐とともにチームを支える4年生に冨山悠真がいる。昨年までは、青柳善の輔(現クリナップ)、森田魁人(現警視庁)、鈴木大樹(現山梨・韮崎工高教)の上級生がいたため、団体戦での活躍の場は少なかったが、強豪の中でもまれて実力をつけてきた。今年は、たくわえていたエネルギーを爆発させるとき。「今年は強いチームだと思いますけど、他の選手に頼るのではなく、自分もしっかり勝って優勝に貢献したいと思います」と話す。
出場予定の70kg級は、日体大からは山下凌弥(3年=全日本選抜選手権74kg級優勝、U20世界選手権70kg級優勝)の出場が予想されるが、冨山は、3年連続全日本王者で昨年のシニア世界選手権2位の青柳善の輔(前述)と連日の練習をこなしており、山下よりワンランク上の選手を相手に鍛えている。「だれが出てきても、自分のレスリングをするだけ」と話し、4年目に訪れたレギュラー選手としてのリーグ戦出場に燃えている。
最重量級はカザフスタンからの留学生で、今年が最終学年となるアビレイ・ソヴィットが守る。
小野正之助が残っていれば、須田とのWレギュラーで今以上に強固な布陣になったが、冨山が「彼はNCAA優勝という夢に突き進んだ。ボク達はリーグ戦優勝の夢へ向かって頑張る。団体二冠を取って(来年3月の)NCAA選手権の後押しをしたい」と言えば、荻野主将も「みんなで頑張る、と自分の中で勝手に小野と約束した。小野の気持ちを勝手に背負って闘いたい」と話す。“チームメート”との団結によってリーグ戦2連覇を目指す。