(文・撮影=布施鋼治)
シルバーコレクターの肩書きは返上だ。5月10(土)~11日(日)の2025年西日本学生春季リーグ戦(大阪・堺市金岡公園体育館)に向け、近大が燃えている。
昨年12月の西日本学生秋季リーグ戦まで6季連続2位と、いずれの大会でも決勝進出を果たしながら、周南公立大の後塵を拝している。「打倒・周南公立大」を胸に、ゴールデンウィーク中も朝10時からの練習で汗を流していた。
近大レスリング部の創部は1949年で、西日本レスリング界の中でも長い歴史を誇る。1970年に竣工されたクラブセンターにある練習場には昭和の風情が漂う。
5月3日の取材日、長尾明来士監督や有元伸悟コーチ、長尾武沙士コーチやはキッズチームの引率などで不在だったが、萩原理実部長が部員たちの追い込みに目を細めていた。「近大がリーグ戦で優勝したのは1997年春季が最後。そのときは磐石の強さを誇っていたわけではなかった。昔は福岡大と近大の(二強)時代もあった。それはもっと前の話。西の中では安定して強いけど、(最近の)万年2位を脱するために学生たちは頑張っている」
部員の自主独立を促すため、運営の基本は部員たちに任せてある。リーグ戦のオーダー作りも部員同士の話し合いで決まる。「学生たちが『この階級は○○に出てもらいたい』という話し合いをしています。間違ったところは指摘するが、我々指導陣は『あれやれ』『これやれ』ではなく、基本的に見守るスタンスです」(萩原部長)
そうした自主性を重んじる気風に魅力を感じて同大学を選んだ部員は多い。昨年の西日本学生新人選手権優勝の川合相希(61kg級・3年)は大阪・吹田市民教室の出身。高校は千葉・日体大柏高校に進学したが、大学進学のタイミングで大阪にUターンした。
「日体柏卒業で西日本に来たのは自分だけ。進学先を話すときには結構言いづらかった。高校では結果もあまり出ていなかったので、同級生からも『西の大学はピッタリなんじゃないか』という声もありました」
大学レスリングが“東高西低”といわれて久しい。高校時代に優秀な成績を収めた選手は、ほとんどが関東圏の大学を選ぶ傾向にあり、その時点でハンディがあるという声もある。だからこそ、西の学生は“東”に対する対抗意識が想像以上に強い。
三重・いなべ総合学園高卒で昨年の西日本学生新人選手権65kg級優勝の小塚彪(2年)は「僕が近大を選んだのは、長尾監督や有元コーチの指導を受けたうえで、西から東を食ってやろうと思ったので」ときっぱり。
視点を西日本全体に向けるならば、先月末のJOCジュニアオリンピック(横浜)では、九州共立大勢が活躍するなど、西も存在感を出しつつある。
とはいえ、現在は目標を開催目前に迫った西日本リーグ戦に置き、“不動の王者”周南公立大越えを果たさなければ先には進めない。
「いまだ周南公立大も強い。リーグ戦では西日本で競い合っていく中で、西日本全体のレベルアップがはかられると思う」(尾浦悠斗=61kg級・2年)
昨年の西日本学生選手権で1年生王者に輝いた尾浦は、中学時代に関西のクラブチームを拠点に活動しながら、高校は三重県のいなべ総合学園に進学し、川合同様、大学進学をきっかけに地元に戻ってきた。
「中学時代は近大に出稽古で来る機会が多かった。勝手知った場所で結果を残したいという気持ちも強かった」
昨年の西日本学生新人選手権では男子フリースタイル61㎏級の表彰台を近大勢で独占するなど、現在のメンバーは軽量級と中量級が主軸。現在3年生の川合は、自分が1年生の時に出場した秋リーグの苦い思い出を口にした。
「自分が決勝の一番手で出て0-10で負けてしまい、流れを周南に持っていかれてしまった。今回自分がトップバッターとして出場するなら圧勝して、近大に流れをもってきたい」
すでに練習は実戦モード。全員がリーグ戦を想定したうえで調整に励んでいた。
「練習時から試合でやるような展開を意識してやるようにしています」(中野瑞己=61kg級・2年)
現在、部員数は25名。今春には女性マネージャーが入部。さらに中国で重量挙げの経験を持つ留学生も「やってみたい」と入部した。志願者数は11年連続で日本一というマンモス校となり、プロ野球やJリーグを筆頭にプロアスリートを多く輩出する西の名門は、18年ぶりにリーグ戦を制することができるか。