2023年世界選手権決勝で樋口黎(ミキハウス)を破り、セルビアの男子フリースタイルで初の世界王者となったステバン・ミチッチ(29歳=米国生まれ~ミシガン大卒、関連記事)が来日し、早大でレスリング教室を開いた。
パリ・オリンピックは第1シードで出場予定だったが、大会の数週間前の練習中にひざを負傷。治療しながら練習を続けたが、負傷箇所が悪化する一方で、無念の棄権(関連記事)。その負傷も治りつつあり、2028年に向かって進み始めている。過去と今後について聞いた。
--負傷のためパリ・オリンピックに出場できなかったときは、どんなお気持ちでしたか?
ミチッチ 本当に悲しかった。けがをする前は体のコンディションもメンタルも完璧だっただけに、残念な気持ちが強かった。振り返ると、あのときは出ないことがベストだったと思うので後悔はない。
--オリンピックは見ていたのでしょうか?
ミチッチ パリには家族で行きましたが、試合はテレビで見ていました。樋口黎選手を応援していた、勝ったときはうれしかったです。
--もし、けがをすることなく出場していて、樋口選手と闘ったら、どうなったでしょうか?
ミチッチ (笑)。いい試合になったと思いますが、レスリングは予測することが難しいスポーツです。勝敗は分からないですね。実は、昔から樋口選手のファンでした。年齢は1歳しか離れていませんが(注=正確には同じ1996年生まれで、樋口が3ヶ月早い)、彼がリオデジャネイロ・オリンピックで銀メダルを取ったとき、なぜ1歳しか上でないのに、こんな大舞台で勝てるのか、と思いました(注=ミチッチがシニアの世界選手権に初出場したのは2019年)。
--パリ・オリンピックの前の年(2023年)の世界選手権決勝で、その樋口選手に勝ったわけですが、振り返っていただけますか?
ミチッチ 準決勝までの試合がうまくいっていたので、コンディションやメンタルは最高でした。試合をしてみて、お互いに最高の試合だったのではないでしょうか。ポイントを取り合った試合で、ファンとしてこの試合を見たなら、とてもエキサイティングな試合だったと思います。レスリングの人気が上がるのではないか、と思える試合でした。尊敬していた日本のレジェンド選手に勝てて、とてもうれしかったです。
--日米のレスリングの違いは何でしょうか?
ミチッチ 日本の選手は若い頃から技術をしっかり身につけていると思います。アメリカは、もちろん技術を身につけることもしていますが、レスリング(闘争心)を養うことが中心になっています。どっちがいい、という問題ではないでしょう。
--世界一になったことの一番の要因は何でしたでしょうか?
ミチッチ 小さな頃から負けず嫌いでした。それが大きかったと思います。
--技術面で飛躍に必要な要素は何でしょうか?
ミチッチ 高校までは基礎技術をしっかり学ぶことだと思います。大学ではパワーのすごい選手が出てくるので、養ってきた技術をベースに、パワーと対抗できる闘いが必要になってきます。世界へ飛躍するようになって一番大切なことは、技術以上にメンタルだと思います。どういうレスリングで勝つかをしっかりイメージし、それに沿った技術を身につけることです。
--指導者の存在は?
ミチッチ 私にとっては、父が最高のコーチでした。自分の強みをしっかり理解してくれ、それに合わせた指導をしてくれました。
--現在のけがの状態はいかがでしょうか?
ミチッチ 3週間前にマットワークを始め、完治とは言えません。実は、手術はしていません。レスリングを続けるには、手術をしない方がいいという結論に達しました。マットに戻れたことで気持ちはいいですが、今後の予定については白紙です。
--次の出場予定の大会は?
ミチッチ 現時点で、今年の出場予定はありません。ただ、私は闘争心は高いと思うので、トレーニングは続け、次に出る大会に備えたいと思います。