宮崎県の高校レスリング界が躍進を続けている。今大会のU17では、男子グレコローマンで宮崎工高の2選手(80kg級・田原想羅、92kg級・木藤陽大)が優勝し、男子フリースタイル55kg級を小此木仁之祐(おこのぎ・じんのすけ、櫻美学園高)が制した。
2023年のU17世界選手権(トルコ)で男子フリースタイル60kg級の前原晟人(都城西高=現山梨学院大)が優勝、昨年のU17世界選手権(ヨルダン)でも51kg級の小此木(前述=当時の校名は都城東高)が銅メダルを獲得し、国民スポーツ大会55kg級では前年のU17世界選手権51kg級王者の小川大和(長崎・島原高=現日体大)を破る殊勲を挙げ、国際舞台へも進出している。
その小此木が、今大会の55kg級決勝で、3月の全国高校選抜大会王者の古澤大和(大阪・大体大浪商高)を破って優勝。同選手は2024年U17世界選手権2位の選手なので、またも“世界ランカー”を破る殊勲で優勝を引き寄せた。
ラスト16秒で4-6とリードされながら、起死回生を狙ったジャンプ~がぶり返しを決める“神業”での逆転勝ち(下動画)。つい1ヶ月前の全国高校選抜大会の3回戦では第1ピリオド、テクニカルスペリオリティで敗れていた相手に雪辱しての優勝だった。
「選抜で敗れたリベンジができてよかった」と小此木。リベンジに向けて脚をさわらせない練習を重ね、試合には「自分の感覚を信じて臨んだ」と言う。その成果が出て、一進一退の攻防。4-6と追う展開となってしまったあとの“ジャンプ攻撃”は「何も考えていなかった。勝手に体が動きました」と言う。
練習でやっていない動きが試合でできるとは考えにくい。案の定、練習でもときにやっていたと言う。もっとも、同高の鴨居正和コーチは「練習ではあまり見たことがない」と証言する。スパーリングは試合を想定して行うわけで、スコアはつけていなくとも、「リードしている」「リードされている」という状況に応じて闘い方を変えることで実戦に近くなる。部内の練習で「小此木がリードされて終了を迎えることは、ほとんどないですから」と言う。
おそらく、目立たない形で練習していたのだろう。その技に頼るような状況になる確率は極めて低いだろうが、わずかなケースを想定してやってきた練習が実った形。同コーチはジャンプのあとのがぶり返しは、小此木を東京(WRESTLE-WIN出身)から引っ張ってきた南九州大の竹田展大監督の得意技で、「竹田監督仕込みの技です」と断言した(注=両チームは一緒に練習している)。
勝負強さのある選手なので、ラスト16秒で2点をリードされる状況になっても、「追いつけると思っていました」と、終盤の反撃を期待していたそうだ。
3月には、パリ・オリンピック金メダリストで三恵海運に所属していた清岡幸大郎選手が都城に来てくれ、挑む機会があった。足下にも及ばなかったが、「2年後には勝つつもりでいます。そのために、足りない部分を補うのに必要な練習をしっかり積みたいと思います」と宣言(関連記事)。向上心は抜群で、その気持ちが結果につながったことは容易に想像できる。
今夏は、U17世界選手権(ギリシャ)とインターハイ(島根)が重なってしまうので、インターハイ王者をあきらめて世界へ挑む。鴨居コーチは「去年のU17世界選手権は3位という悔しい結果だったので、今年は世界チャンピオンとして帰国してほしい」と期待する。
チームとしても「校名が変わって幸先いいスタートが切れました。発展途上のチームですので、仁之祐以外の選手も頑張らせ、チームで発展していきたいと思います」と力強く宣言した。