2025.04.04

【2025年全国高校選抜大会・特集】“アリエフ効果”で4年ぶりに2階級優勝…埼玉栄(埼玉)

 2025年風間杯全国高校選抜大会の個人対抗戦では、埼玉栄(埼玉)が2階級を制した。同校から2選手が優勝したのは、荻野海志五十嵐文彌(ともに現山梨学院大)が優勝した2020・21年以来。

 今大会で優勝したのは、65kg級の丸田龍平と71kg級の福井大翔の2年生(新3年生)。丸田は一昨年のU15アジア選手権代表選考会や昨年の全国高校生グレコローマン選手権で優勝しているが、福井は全国優勝のない選手。1試合前に行われた丸田の優勝に触発された形の栄冠となった。

▲相乗効果で優勝の65kg級の丸田龍平(右)と福井大翔

高校OGの元木咲良の必殺パターンを吸収…丸田龍平

 先に栄冠を手にした丸田は「先生方(監督、コーチ)のほか、ときに来てくれるOB、OGの方がいてくれての優勝だと思います。このチームでなかったら優勝できなかったと思います」と周囲の尽力に感謝。準決勝までの5試合のうち、昨年の国民スポーツ大会2位の辻田陽咲(大阪・大体大浪商)戦を8-4で勝った以外は、10-0のテクニカルスペリオリティで勝つ強さ。辻田との試合は「競ってしまったけど、勝ち切ることができ、去年より成長しているのかな、と思います」と振り返った。

▲前半のリードを守って栄冠を勝ち取った丸田

 優勝の要因を問われると、「アリエフの落としが効きました」との答え。昨年のパリ・オリンピックを技術面で強い関心持って見ていた人でなければ、よく分からない答なのではないか。埼玉栄OGの元木咲良(女子62kg級優勝)の強さの秘密として多くのメディアに報じられたことだが、「アリエフ」とは、ハジ・アリエフ(アゼルバイジャン=61kg級で3度世界一、2021年東京オリンピック銀メダル)の得意な「相手の首に手を掛けて頭を押し下げ、バランスを崩す」という攻撃のこと。

 腕が長く相手の頭を落とす力のある選手に適する技で、いつの間にか「アリエフ」が技の名前であるかのように伝わった。「いつも練習していました」とのことで、すでに高校選手の間でも広がっている。世界トップの技術のマスターにどん欲な姿勢が優勝を引き寄せた要因なのかもしれない。

 ただ、鸙野大河(ひばりの・たいが=京都・京都八幡)との決勝の第1ピリオドを8-1とリードしながら、最後は守ってしまい、ラスト10秒に8-7まで追い上げられたのは反省材料(鸙野陣営のチャレンジ失敗で、最終スコアは9-7)。「相手の(終盤の)タックルに反応し切れず、前さばきがしっかりできなかった」と言う。「逃げる」のでなく「守った」のだが、やり方がまずかった。「次は圧倒的な差で勝ちたいと思います」と、一気にテクニカルスペリオリティで勝つ強さを身につけることを誓った。

▲日本で自分の名前が技の名前になるとは思わなかっただろう。高校生も研究しているハジ・アリエフの攻撃パターン=2021年東京オリンピック決勝

丸田を目標に全国一へ到達…福井大翔

 丸田の優勝を見届けてマットに上がった71kg級の福井は、小林賢弥(大阪・大体大浪商)を5-0で完封。相手は年下だが、全国少年少女選手権5度優勝、全国中学生選手権2連覇、U15アジア選手権優勝の実績を持つ強豪であるのに対し、自身は全国2位が最高。「中学時代から、決勝までは行けても優勝できなかった。辛い時期もあった」と話し、涙ボロボロ。

▲実績十分の選手を相手に開始から積極的に攻めた福井大翔

 優勝経験を持つ丸田を目標に頑張ってきたそうで、「龍平(りょうへい=丸田)にめっちゃ感謝しています」と声を振り絞った。すぐに「2番目に感謝するのは、いつもお弁当をつくってくれたりでサポートしてくれる両親です。そして、うまくいかないときにも、優しく声をかけてくれる先生(監督、コーチ)にも感謝です」と話し、周囲の人たちのサポートのおかげであることを繰り返した。

 あらためて優勝の要因を聞くと、「やっぱり龍平です。目指してきたけど、自分が本当に優勝できるとは思っていなかった。技術的なことより、丸田に続くという気持ちだったと思います」と振り返り、「2025年は(レスリング界に)栄旋風を起こします」と言い切った。

▲優勝を決めた後、応援席に感謝の報告

練習量を積ませているが、「ブレーキもかけています」と宮原厚次コーチ

 金﨑正一郎監督は「2人の優勝は本当にうれしい」と第一声。練習は、選手にメニューを作らせ、それを実践しているという。中心になっているのはこの日優勝した2人。「勝つためには何が必要かをしっかり考えさせています。私は、監督らしいことは何もやってないですね」と苦笑い。試合に出られなかった選手も含めて選手が一丸となって練習してきた成果だと振り返る。

 毎年12月の天皇杯全日本選手権に出場している高校別の選手数(現役、OBOG)は2年連続でナンバーワン(2023年=26選手、24年=23選手)。オリンピックで金メダルを取った元木咲良(4月から群馬大大学院)を筆頭に、世界選手権2位の青柳善の輔(現クリナップ)など世界へ飛躍している選手も多い。この大会と同時期にヨルダンで行われたアジア選手権では吉本玲美那尾西桜が優勝し、チームへエネルギーを与えた。

 「時間を見て母校に来てくれる卒業生が多いんです。現役と卒業生が団結して頑張っています」と言う。

▲チームを指揮する金﨑正一郎監督(左)と宮原厚次コーチ

 60代の後半になっても選手とスパーリングしている宮原厚次コーチ(1984年ロサンゼルス・オリンピック優勝)は「よく練習している2人が優勝したのは、よかった。他の選手も続いてほしい」と言う一方、成長期のこの年代でやりすぎると体を壊してしまうので、「ブレーキをかけているんです」とのこと。

 練習量をしっかり積むべきは「大学1~2年生のころ」が持論で、高校生のときに必要なことは、自主性を身につけること。だからこそ、自分たちで練習メニューを考えさせているそうだ。「将来伸びるような強さを身につけさせたい」と話し、目先の結果ではなく、その強さが将来も続く強化方針を説明した。