(写真は、すべて本人提供)
昨年の男子フリースタイル61kg級世界チャンピオンの小野正之助が、全米大学(NCAA)チャンピオンを目指し、山梨学院大を休学してペンシルベニア州立大(ペンステート)へ進学することを明らかにした。米国のレスリング・サイト「flo Wrestling」も報じた。
同選手は「世界チャンピオンになり、その後NCAAチャンピオンになった選手は、そういないと思います。それに挑戦してみたい。自分がNCAAに挑むことで、こういう道もある、と後に続く選手に伝えられると思います」と挑戦の動機を説明。
2013年に、右脚のないハンディを乗り越えて全米学生王者になったアンソニー・ロブレスが来日したとき、大会会場に来てセコンドについてもらったことがあり(関連記事)、「アメリカのレスリングってすごい!」という気持ちを持った。その思いが今も続いているという。ペンステートからスカウトの話があったとき、「行かない、という決断はできませんでした」と話した。
周囲には、世界選手権の優勝を続けてオリンピック王者への期待もある。その思いもあるそうだが、「世界選手権の連覇は多くの選手がやっている。だれもやったことのないことに挑みたい。オリンピックを(一途に)目指すことがすべてではない。楽しいことを毎日やりたい。この決断を後悔することは絶対にありません」ときっぱり。
▲米国のオリンピック・チャンピオンとともに。小野の右からケンダル・クロス(1996年アトランタ)、アミート・エロル(2024年パリ)、ヘレン・マルーリス(2016年リオデジャネイロ)。右端は妹の小野こなみ(東京・日体大桜華高)
この冬はペンステートの誘いで米国で練習し、大会を観戦し、試合にも出た(関連記事)。「何万人もの観衆の中で試合できることに、すごい、と思った。自分がそこで闘えるようになるとは思っていなかったけど、それができるようになるのは、とてもエキサイティングな気持ちです」と今の心境を話した。
アメリカで一番のペンステートで、すごいと思う一方、自分でもできるんじゃないかな、という気持ちもあります」と自信を見せた。米国の大学でやっているカレッジスタイルは経験したことはないが、「不安を埋めていく過程が楽しいと思います」とのこと。
この冬の米国遠征で、2012年オリンピック王者のジョーダン・バローズ(米国)と行動をともにすることが多かったが、「練習は、ゲームセンターに行くのと同じ気持ちで行くことが必要なんだ」と言われたそうだ。自分も、練習がきついと思ったことはないし、楽しいという気持ちで取り組んでいるので、カレッジスタイルへの挑戦も、楽しさで充満することを予想しているようだ。
山梨学院大を休学することに、引っかかりがあることは確かだが、最終的には「自分の決めた道で頑張っれ」と言われたという。「結果で恩返ししたい。他の大学でやっていたら世界チャンピオンになれなかったかもしれない。しっかり育てていただきました」と感謝の気持ちを表した。
NCAA王者を経て世界・オリンピック王者になった選手は数多くおり、日本から留学した上武洋次郎(オクラホマ州立大)もその一人。1964年にNCAA王者となり、同年の東京オリンピックで優勝した。世界王者を経てNCAA王者になった選手としては、カイル・スナイダー(2015年世界王者~2016年NCAA王者)がいて、例がないことはないが、米国から見て外国の世界王者がNCAAに参戦することは、初めてなのではないのではないか。
「flo Wrestling」は、昨年の世界選手権で世界チャンピオンのビタリ・アルジャウ(米国)、東京オリンピック王者のザウ-ル・ウグエフ(ロシア)を破って優勝し、今年2月のワンマッチ大会でパリ・オリンピック57kg級銀メダリストのスペンサー・リー(米国)を破るなど、世界中から注目されている選手であることを説明。
今月のNCAA大会で4年連続13度目の優勝を遂げた同大学の層が厚いため、どの階級で闘うかは来シーズンにならないと分からないとしながら、「どの階級で闘うかは関係なく、小野の経歴は、彼がすぐにNCAAチャンピオンの候補になることを示唆しています」と期待している。
World champion Masanosuke Ono ➡️ Penn State! pic.twitter.com/G9urWQtERz
— FloWrestling (@FloWrestling) March 24, 2025