2025.03.20

【特集】両スタイルで鍛えた実力でアジア王者を目指す…男子フリースタイル65kg級・田南部魁星(日体大)

 男子フリースタイル65kg級は、日本がオリンピック2大会連続で金メダルを取った階級。このあとの大会では、だれが出ても“最強国の選手”として警戒される宿命を持つ。

 今月25日から始まる2025年アジア選手権(ヨルダン)でその重責をになうのは、今年度の日体大の総合主将を務めた田南部魁星。昨年の61kg級に続いての出場。階級をアップして1年で全日本選手権2階級制覇を達成した実績で、その壁に挑む。

▲65kg級では初となるアジア選手権を目指して練習する田南部魁星

 「去年は1回戦で負けてしまいました。1年ごしのリベンジの機会に気持ちが上向いています」。階級を上げての挑戦となるが、2月末のUWWランキング大会(アルバニア)の65kgに出場して外国選手との闘いは経験済み。さらに「日体大の65kg級、70kg級、74kg級の選手の間で鍛えられていれば、(階級アップは)問題はありません」と自信を見せる。

 田南部の特徴のひとつが、グレコローマンにも全力で取り組んできたこと。日体大に入学以来、新人戦、東日本学生選手権などでグレコローマンにも数多く挑戦し、優勝も飾っている。この4年間で最も多くの試合出場を経験している選手なのではないか。

 昨年12月の全日本選手権は、1973年の吉田光雄(専大=長州力)以来となる両スタイル決勝進出を成し遂げる快挙。グレコローマンは、さすがにアジア大会王者(遠藤功章)に敗れて銀メダルに終わったが、フリースタイルは学生王者の西内悠人(日体大)とU23世界2位・大学王者の荻野海志(山梨学院大)を破って優勝した。レスリングの世界は、必ずしも「二兎(と)を追う者、一兎も得ず」ではない。

▲アジア大会王者には勝てなかったが、グレコローマンでも決勝に進出した昨年12月の全日本選手権=撮影・矢吹建夫

直前のU23全日本選手権はグレコローマンに挑戦

 今回も、アジア選手権の前にあるJOCジュニアオリンピックカップU23全日本選手(3月23日、東京・立川市)のグレコローマン72kg級にエントリーしている。

 これまで通り、実戦を数多く経験し、その勢いでアジア選手へ挑む腹積もりか? その推測は明確に否定した。「面白いかな、と思いまして」というのが、グレコローマンにも挑む理由。西日本学生王者の長野壮志(九州共立大)や全日本大学グレコローマン選手権2位の菊田創(青山学院大)がいる階級なので「確実に負けるとは思いますけど…」と言いつつ、「そこで勝ったら面白いかな、と思います」と言う。

 経験を積むのではなく、控えめながらも快挙を求めての挑戦だ。快挙に挑むことが楽しいのだろう。「プレッシャーを楽しめるようになれば、その人は一流です」(ミスター・ジャイアンツの長嶋茂雄氏)の言葉の意味とはやや違うが、快挙に挑むことを楽しいと感じるようになれば、一流の域に近づいていることは間違いない。

▲先月のUWWランキング大会(アルバニア)で65kg級の国際大会を経験した田南部=撮影・保高幸子

 昨年のアジア選手権は1回戦でイラン選手に4-4の同スコアながらの黒星。敗者復活戦に回ることもなく終わった。「日本の1位になってのシニア代表は初めてなので、積極的に行かなければ、という気持ちがあり、後半ばててしまいました」と振り返る。その反省から、今大会は「最初から落ち着いて闘いたい」と言う。

 イランの元世界王者(パリ・オリンピック決勝で清岡幸大郎が闘った相手)は出場しないが、今年2月のUWWランキング大会(クロアチア)優勝のアッバス・エブラヒムザデフがエントリー。昨年のU23世界選手権で荻野(前述)が勝っている相手なので、荻野との今後の闘いを見据えても負けられない。昨年の61kg級王者で2月のランキング大会で負けたタイルベク・ジュマシベクウウル(キルギス)が出てくるので、しっかりとリベンジしておきたいところ。

2人の金メダリストに負けない成績を目指す

 4月からはミキハウスでレスリングを続けることになった。2人のオリンピック金メダリスト(樋口黎、文田健一郎)のいる所属なので、プレッシャーがあると思われるが、「特にないですね」と笑う。実績が足りなかったせいか、なかなか進路が決まらなかっただけに、重圧よりレスリングを続けられる環境を得たことの方がうれしいようだ。

▲学生&国民スポーツ大会王者の西内悠人とも連日の練習をこなす

 日体大へ進んだときは「ここでやっていけば強くなれる」と思ったと言う。だが、いるだけでは強くなれない現実に直面し、姿勢を改めた。3年生で大学王者と全日本王者へ。最終学年の今年度は総合主将へ。チームのグランドスラムの継続はならなかったが、「4年生の自分と山際航平(グレコローマン55kg級)が最後の天皇杯を取れたので、いい4年間だったかな、と思います」と、充実した学生生活を振り返る。

 卒業後も第一線で競技生活を続ける選手も多く、進路は違っても切磋琢磨する仲間は多い。ミキハウスの偉大な先輩に負けないだけの成績を目指し、新たな闘いが始まる。