2025.03.18

【特集】世界のトップをアジア勢が独占している階級、まずアジア王者へ!…男子グレコローマン60kg級・稲葉海人(滋賀県スポーツ協会)

 世界王者との闘いを無駄にはしない-。3月25日(火)からヨルダンで行われる2025年アジア選手権の男子グレコローマン60kg級に、昨年に続いて出場する稲葉海人(滋賀県スポーツ協会)は「いい準備はできてきたと思います。あとは体重調整を含めてコンディションを整えるだけです」と、最後の調整に励んでいる。

 昨年4月の大会では世界王者のジョルマン・シャルシェンベコフ(キルギス)に敗れて銀メダルに終わった。その後、明治杯全日本選抜選手権、国民スポーツ大会、天皇杯全日本選手権と国内トップレベルの大会で優勝を続け、日本代表にふさわしい成績を残してのアジア再挑戦となる。

▲2年連続のアジア選手権挑戦へ向けて練習する稲葉海人

 練習では67kg級のパリ・オリンピック代表の曽我部京太郎(ALSOK)とやることが多く、他に2023年アジア大会67kg級優勝の遠藤功章(東和エンジニアリング)ら世界トップレベルの選手の中でもまれている。84kg級の選手だった松本慎吾監督とも、ときにスパーリングする。「体重で攻められれば、自分は何もできないけど、組み手とかの技術で攻めてくるので、学ぶことは多いんです」と話し、最高の練習環境だと言う。

 2023年アジア大会銀メダルの鈴木絢大(レスター)は一時的に63kg級へ上げているだけであり、成長著しい塩谷優(自衛隊)が先月のランキング大会(アルバニア)を圧勝で優勝した。そうした事実があっても、3大会連続優勝の自信は大きい。「自分が一番だと思っています。結果が示しています」ときっぱり。日本代表としてアジアへ挑む自覚を持っている。

 「アジアへ挑む」という表現は、間違っているだろう。「上には(文田)健一郎先輩がいます。そこを目指し、世界一を目標にやっています」と、今回の闘いは世界王者への通過点であることも口にした。今年は「世界チャンピオンになって、12月の天皇杯で健一郎先輩と決勝で闘い、勝つのがモチベーションです」ときっぱり。それを経ての長期的な目標は、言うまでもなく2028年ロサンゼルス・オリンピックでの優勝だ。

▲ときに一回り大きい松本慎吾監督とも練習

U23世界王者のウズベキスタン選手が要注意

 昨年の決勝で負けたシャルシェンベコフは、2度の世界選手権を含めて2022年8月からの国際大会で負け知らず。パリ・オリンピックで文田に敗れたが、前年の世界選手権では文田を破っており、パリでも文田の野望を打ち砕く可能性もあった“絶対王者”だった。

 稲葉は「負ければ、どんな試合でも悔しいですが…」と前置きしながら、世界王者を相手に終盤まで持ちこたえ、「手の届かない相手ではない」という感触を得た試合。自らの世界における立ち位置を知り、その後の練習に役立てるための貴重な試合だったと振り返る。国内の3大大会を連続優勝できたのは、「あの負けがあって、工夫して練習してきたから」と考えている。

▲世界王者を相手に果敢に闘った昨年のアジア選手権。この1年間の成果をぶつける=撮影・保高幸子

 25歳のシャルシェンベコフが引退することは考えづらく、いずれ復帰してくるだろうが、今大会に出てくるキルギスは別の選手。しかし、当初はパリ・オリンピック2位のカオ・リウゴ(曹利国=中国)と同3位のリ・セウン(北朝鮮)がエントリーしており、気の抜けない闘いを覚悟してここまでやってきた。

 カオ・リグオは直前になってエントリーを取りやめたもようだが、昨年のU23世界選手権で優勝し今年1月のランキング大会(ザグレブ)でも2位に入ったアリシャー・ガニエフ(ウズベキスタン)の名前がエントリー・リストにあり、「要注意」と感じている。いずれにせよ、「だれが相手でも、培ってきた実力をぶつけようと思います」と気合を入れる。

世界のトップをアジア勢が占めている60kg級

 アジア選手権の前に、2月末のランキング大会(アルバニア)に出て力試しする選択肢もあったが、大会間隔が1ヶ月しかなく、減量期間が2度になることを考えると「練習を積んだ方がいい」とスルーした。代わりに出た塩谷優が圧勝で優勝し、UWWウェブサイトで大きく特集された(関連記事)。しかし、気持ちが揺らぐことなない。

 「(塩谷は)強いし、リスペクトしてますけど、2回勝っているし、自分の方が上という自負はあります」と語気を強めた。「この階級は自分と健一郎先輩とが競うべき階級だと思っています。他の選手は寄せつけない、という思いで練習してきました」と自信を見せる。

▲台頭が予想されるU23世界王者のアリシャー・ガニエフ(ウズベキスタン)。アジアの勢力図が変わるか=UWWサイトより

 昨年3月に日体大大学院を卒業し、国民スポーツ大会開催(今年9月=栗東市)で燃える滋賀県のスポーツ協会にお世話になっている。「北岡先生(秀王=県強化委員長)が同じ階級で国際舞台の実績があり、指導を受けたい気持ちがあった」のが選んだひとつの理由。地元国スポへ向けてムードはよく、滋賀県生まれではなくとも熱い応援をしてくれるので、「気持ちが盛り上がる」と言う。

 アジアが目標でないことは前述の通りだが、2023年世界選手権は上位6選手がアジアの選手であり、パリ・オリンピックは上位4選手がアジア勢で、上位6選手のうち5選手がアジアという事実は、アジアを制することが、世界王者につながることを意味する。「表彰台の一番上から見る景色を経験し、去年聞くことができなかった国歌を聞いてみたい」という思いを胸に、まずアジア王者を目指す。