2025.03.15

【特集】女子の元世界選手権代表が南国・宮崎でハイレベルの指導…全日本V3の松雪成葉監督(都城東高)

 U17世代で世界のトップレベルの選手を輩出し、シニアでも世界進出を目指す宮崎県。女子でも、昨年12月の全日本選手権で3位入賞の選手が生まれ(持永聖愛=南九州大)、躍進に拍車がかかっている。

 オリンピック出場はならなかったが、世界選手権出場を経験した松雪成葉(愛知・至学館高~至学館大OG)が、昨年4月から都城東高校(4月から「櫻美学園高校」と校名変更)に保健体育の教員として赴任し、男子選手をも含めて指導にあたっている。全日本選手権優勝3度、世界ジュニア選手権優勝、アジア大会3位と国内外で実績を残した選手。同県にとっては、いっそう飛躍の期待できる環境ができた。

▲選手生活を終え、宮崎で後進の指導に情熱を燃やす松雪成葉・都城東高監督

 松雪は「選手としては、特に実績がないですから…」と謙遜し、当初は自分が取り上げられることを躊躇(ちゅうちょ)した。だが、双子の姉の松雪泰葉(ジェイテクト)とともに幼少の頃からレスリングに親しみ、至学館大でもまれて結果を出してきたのは間違いない事実。

 泰葉が2016年インターハイで優勝し、2017年U23世界選手権を制するなど先を進んでいたようなイメージもあるが、初めて全日本チャンピオンに輝いたのは成葉が先で、2017年(72kg級)のこと。世界選手権も2018年(同級)に出場した成葉の方が早い。

▲至学館高3年生の2017年に全日本チャンピオンに輝いた松雪成葉=撮影・矢吹建夫

「選手活動を続けるか、新しいことにチャレンジするか」

 2023年全日本選手権で敗れてパリ・オリンピック出場を逃した。そのとき24歳。「今しかできない選手活動を続けるか、新しいことにチャレンジするか」という岐路に立ち、新しい世界へのチャレンジを選んだ。姉は選手活動を続けており、昨年6月の全日本選抜選手権、12月の全日本選手権ともに2位に入賞。ロサンゼルス・オリンピックの見えているところに位置している。

 双子で高校~大学~就職先と同じであっても、別人格である以上、常に同じ道を歩むわけではない。自分の人生を考えた末の結論。練習場所だった専大のOBで南九州大の竹田展大監督の誘いを受け、後進育成の道を進んだ。自身は愛知県出身。父が佐賀県出身で、九州とは多少のつながりがあったが、「宮崎県は行ったこともない地でした」とのことで、不安もあった。だが、「日本なんだから」と割り切って新天地での生活をスタート。

 初めて、と言えば、指導に携わることも初めて。自分の頭の中で理解してできたことを「言語化して伝えることの難しさ」に遭遇し、人に伝えることの大変さを感じた毎日だったが、幸いだったのは、都城東高校のレスリング部の創部とともに自身の指導者生活もスタートしたこと。完成されているチームや大所帯のチームに入って指導を手がけることに比べれば、6人の選手とともに成長していくことに、やりがいを感じることができた。

▲3月10日に来訪した清岡幸大郎、日下尚のパリ・オリンピック金メダリストと都城東高チーム

 キッズ~大学生の一貫強化の体制ができていることに加え、元自衛隊で世界5位の実績を持つ鴨居正和コーチがいて、外部コーチに竹田監督(前述)がいることも心強かった。竹田監督の教え子の一人の小此木仁之祐がU17世界選手権で3位、階級を上げて国体2位と結果を出してくれ、周囲に助けられながらも試行錯誤の初年度が終わった段階だ。

宮崎でも日本の強化に貢献していることを知ってもらいたい

 部員が増える4月以降、「もっと勝ちにこだわってやっていくことが課題だと思います」と、ワンランク上の強化を目指す。今年度の1年生が3年生になる2026年度に学校対抗戦で全国大会の団体優勝が目標。関東や関西の大学の練習に加えさせてもらうには経費がかかりすぎるので、大会で遠征に行ったときの帰りに練習させてもらいなど工夫をしながらの強化となる。

 もちろん、女子の強化への気持ちも高い。至学館大で自分が受けたような練習をしては「時代に合わないでしょう」と苦笑いし、「バーベキューとかの楽しみを取り入れつつ、練習に打ち込んでくれることを目指しています」と、今の選手に合った練習をする中での強化を心がける。「宮崎でも、こうして強化に取り組んでいるよ、ということを、まず全国に知ってもらえる成績を出したいと思います」と言う。

 姉や兄(泰成=専大監督)と必要な連絡はとるものの、遠く離れたこともあってか、「(動向は)あまり気にならないですね。自分のやるべきことで精いっぱい、という感じで」と、初年度は選んだ道をしっかりこなすことに追われた。日本トップ選手の技術を伝授し、これからが勝負だ!