1972年に設立された全日本プロレスは、ジャンボ鶴田(中大OB)に始まり、三沢光晴、川田利明(ともに栃木・足利工大附高OB)、秋山準(専大OB)、本田多聞(日大OB)、諏訪間幸平(中大OB=現諏訪魔)、最近ではデビュー10年を迎えた芦野祥太郎(日体大OB)、人気絶頂の安齊勇馬(中大OB)と、レスリング界の人材を多く受け入れてきたプロレス団体。現在はキッズのレスリングにも取り組んでおり、「全日本プロレスジュニアレスリングクラブ」(AJPW.jr)が活動している。
2月11日に東京・新宿スポーツセンターで行われた「新宿キッズトーナメント」では、小学1・2年の部+30kg級で菊地志鷹が優勝し、計5選手が3位入賞を果たした。菊地選手は「将来はプロレスラーになりたい」と目を輝かせる。同クラブは“プロレスラー養成教室”ではないが、見守る岩崎秀司、佐藤丈治の両コーチ(ともに中大OB)も優勝選手の誕生はうれしそうだ。
クラブの代表は全日本プロレスのエース兼取締役の諏訪魔(前述)。レスリング時代には世界選手権にも出場しており、2004年アテネ・オリンピックの代表候補だった。プロレスへ進んでからは、2008年に「横浜デビルズ」を設立してレスリング選手の育成も手がけた。同クラブからは、甥(おい)の諏訪間新之亮(現自衛隊)、岩﨑和志(現中大)、岩﨑美優(現東京・日体大桜華高)らが生まれている。
2021年4月から「全日本プロレスジュニアクラブ」として再スタート。監督には茨城・鹿島学園高卒で現役プロレスラーの田村男児が就任。週2回の練習+他チームへの出げいこに、約20人が全日本プロレスの道場で汗を流している。
チャンピオンを数多く輩出するには至っていないが、着実に裾野を広げているのは確か。“親”である全日本プロレスは、安齊ら新世代の台頭もあって上向き傾向。プロレスの聖地、後楽園ホールでの大会では満員の観客であふれる盛況ぶりで、“親子”でレスリング界を席巻する日が待たれる。
岩崎コーチは「レスリングの基礎をしっかり教え、小学校でレスリングを終わることなく、中学、高校、大学と続けていく選手を育成したい。そういう気持ちになるような練習を心がけたい」と、長い視野での選手育成を目指す。週2回の練習では、全国大会で優勝するのは難しいのが実情だが、押しつけの練習では長続きしない。「選手が自主性を持ってくれるようにしたい。やる気を持ってくれれば、出げいこへも行きます」と、無理強いすることのない指導を口にする。
ただ、「レスリングを好きになる一番の方法は、試合で勝つことでしょう」とも話し、勝つことにこだわる姿勢の指導も忘れない。
岩崎コーチとともにセコンドについた佐藤コーチは、東京・京北高時代に全国高校生グレコローマン選手権88kg優勝、中大時代の1999年には全日本大学選手権130kg級を制した強豪選手。「基本的には試合で勝てる選手を育てたいですが、高校や大学でもレスリングを続け、活躍してくれる選手が生まれてほしい」と、岩崎コーチと異口同音の言葉を口にする。同時に、「レスリングが強くなるだけではなく、礼儀、目上の人に対する言葉遣い、態度など人間として大切なことを学んでほしい」と話した。
大学の最重量級で活躍した体は、キッズの大会会場ではひときわ目立ち、「セコンドにいる人は、プロレスラー?」と注目される雰囲気がある。しかし、目立つべきは、セコンドではなく選手。「全日本プロレス」とのネームの入ったシングレット姿の選手に多くの注目が集まる日が待たれる。