今年11月に開催されるデフリンピックのレスリング会場で行われた2024年度関東高校選抜大会。デフリンピックを想定し、地方大会では初めてと思われるマットステージでの闘いの学校対抗戦は、文化学園大杉並(東京)が決勝で、12大会ぶりの優勝を目指す花咲徳栄(埼玉)を5-2で破り、同好会スタートから14年目にして初の関東王者に輝いた。
成國大志監督(2022年世界選手権・男子フリースタイル70kg級優勝)は「うれしい、という気持ちはありますが、どちらかと言うとホッとした、という感じです。新チームになって、選手に『全国選抜大会とインターハイで優勝する』と言い続けてきて、ひとつのヤマを越えたという感じです」と話し、あくまでも通過点であることを強調する。
同時に、全国制覇の常連で、この大会も初出場からの7大会すべてで決勝へ進んで5大会を制している日体大柏(千葉)、インターハイ優勝の経験もある花咲徳栄を破っての優勝は「自信になります」と話し、3月末の全国選抜大会(新潟市)へ向けて、大きな自信となった優勝でもあったようだ。
昨年はオール1年生の5選手で臨み、初戦で日体大柏(千葉)に2-4で黒星。同高の王座奪還の弾みをつけさせるとともに、全国大会への出場を阻まれた。その後、JOC杯ジュニアオリンピックU17で3選手が優勝する一方、負傷者も出てインターハイへの出場もならなかったが、着実に実力を養成。
準決勝で1年ぶりに対戦した日体大柏も、5選手が昨年と同じメンバーという布陣だったが、51kg級の椎名遥玖(2022年全国中学生選手権優勝)が昨年のインターハイ王者の大井喜一をフォールで下す幸先いいスタートで流れをつくった(昨年のこの大会での対戦は1-3の黒星)。
55、60kg級を落としたものの、65kg級で負傷による手術から戦列に復帰した安威永太郎が手術前と変わらぬ強さを見せて白星。重量2階級の不戦勝が決まっていたので、この段階で昨年のリベンジを達成。いい流れで決勝へ進めた。
成國監督は全体を通じ、「内容のいい試合もあれば、悪い試合もあった」と見ているが、「それをカバーし合うのが団体戦」と話す。持っている実力を発揮できない選手がいれば、他の選手が実力を出し切ってばん回するという団体戦の鉄則はできていたと評価した。
アンクルホールドやローリングが単発で終わらず、何回転も仕掛けてポイントを一気に取るシーンも目立った。「極め」がしっかりしているからだろうが、同監督は、全日本レベルに達していない高校生のレスリングでは「逆に、かかってしまう可能性もありますよ」と話す。実際にその可能性があった試合もある。「反省点ですね」と振り返った。
各階級1選手ずつの7選手での闘い。3年生が抜けたこの時期はどのチームも同じ状況だが、負傷者が出たら厳しい闘いとなってしまう。練習では、けがをしないように十分に注意させ、選手が熱くなりすぎていると感じて止めることもあったと言う。逆に考えれば、それだけ熱の入った練習をやってきたわけで、やってきた練習が正しかったことを示したとも言えよう。全国大会に向けて、どう生きるか。
全員がキッズ・レスリング出身なのでキャリアでは申し分のないチームだが、初の全国大会出場によるハンディは「あるでしょう」と言う。勝負の世界では、伝統という目に見えない力が大きく作用することがあり、それが選手を支えるケースがある。「伝統校ではないので、どこかひとつ取られたりすると、慌ててしまい、パニックになる可能性はありますね」と話す。
「落ち着いて、いつも通りの自分のレスリングをやってほしい」と望む同監督が警戒するのは、昨年の二冠王者の鳥栖工(佐賀)であり、近畿大会を優勝した大体大浪商(大阪)。もちろん、今大会は勝ったが、日体大柏と花咲徳栄との試合も「ひとつミスがあったら、どうなっかた分からないという実力差」を感じており、どこが相手でも気を抜いてはならない状況は理解している。
「満足するいことなく、もう一回、1からやり直したい」。世界チャンピオンが監督として指導する唯一のチームが、全国大会では進化した姿を見せるか。