※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治)
“怪物”と呼ぶしかない。2024年天皇杯全日本選手権・第1日(12月19日)に行われた男子グレコローマン82㎏級は、吉田泰造(香川・高松北高)が磐石な強さを見せつけ優勝。6月の明治杯全日本選抜選手権に続き、全日本選手権を制した。男子高校生で全日本2大会を制したのは史上初の快挙だ。
「高校生で全日本二冠は(過去に)いないということなので、今はとてもうれしい」
シニアの大会で高校生が社会人や大学生の選手と対峙すると、フィジカルで劣勢になるケースが多い。吉田は例外。とにかく腰が重く、年上と組み合っても決して体力負けしていなかった。その理由を聞くと、「自分のバックボーンは相撲」と打ち明けた。
「父が相撲をしていたので、自分も始めました。押す力やマット際の感覚は相撲で培われたと思います。押すときには振られないように重心を下げ、腰を割ることが大切。そのことを思い出すために、試合前には必ず四股(しこ)を踏んでいます」
勝負のキーポイントは岡嶋勇也(警視庁)との決勝戦だったと振り返る。スコアは5-0で失点を許さなかったが、吉田は「自分の動きがあまりできなかった」との反省を忘れなかった。「いつもならスタンドで押し出したり、2点や4点を狙いに行くんですけど、今回の決勝ではそうすることができず、ちょっとしんどい試合になってしまいました」
昨年のこの大会では、決勝で玉岡颯斗(早大)に4-6で敗れ、悔しい思いをしている。あれから1年、吉田は大きく成長していた。「今年6月の明治杯までは、グラウンドで一回も返せないのが普通みたいなレベルでした。それからグラウンドの強化を図ったので、今回はその努力が実ったのかな、と思います」
8月のパリ・オリンピックでは、高校の先輩である日下尚(三恵海運)が男子グレコローマン77㎏級で金メダルを獲得。一緒に練習する機会も多い吉田は大きな刺激を受けた。
「高松北高校は地方の学校です。(全日本レベルの)練習相手はいないし、部員も少ない。環境は整っていないんです。でも、その中からオリンピック・チャンピオンが出るということは自分にもそうなる可能性があるのかなと思いました」
今年は4月に行われたシニアのアジア選手権で初優勝を果たし、シニアの世界選手権に初挑戦したことも大きな収穫だった(5位)。
「世界選手権では(3回戦で)イランのゲラエイ選手(モハマダリ・アブドルハミド・ゲラエイ=この大会で優勝)に負けてしまったんですけど、そのときは攻めなくてもいい場面で無理をして攻めてしまい、流れが向こうにいってしまった。でも、そういう経験を積むことで、世界とのレベルの差も分かったし、いい1年だったと思います」
今大会は、さっそくその反省を活かし、決して無理な攻めはしないように務めていたという。「しっかりと自分に有利なポジションを作り続けることを意識していました」
卒業後は日体大に進学する予定。「ほかにも候補があったけど、やっぱり尚先輩をはじめオリンピックの金メダリストを数多く輩出していて、日本一の練習環境だと思ったので日体大を選びました」
高松から世界へ。吉田は日下の背中を追うように、2028年のロサンゼルス・オリンピックでは金メダル獲得を目標としている。
「ロサンゼルス・オリンピックのとき、僕は大学4年生。いまの練習環境からグレードアップした日体大で4年間で練習を続け、その集大成としてオリンピックで優勝したい。そのときは、尚先輩と一緒にという思いもあります」
奇しくも、日下もパリ・オリンピックの優勝では、その原動力として、かつてレスリングとともに打ち込んでいた相撲の存在が話題となった。高松北コンビは、香川名物のうどんのパワーに加え、相撲パワーで世界を席巻するのか。