※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
レスリング王国イランの血が流れてる選手は、吉田ケイワン(三恵海運)・アラシ(日大)らの兄弟だけではない-。11月30日~12月1日に行われた東京都知事杯全国中学選抜U15選手権で、イラン人の父を持つガレダギ愛千(あいせん、東京・IWC=イランレスリングクラブ)が男子44kg級で優勝。昨年の41kg級での1年生王者に続いて2連覇を達成し、今年は6月の沼尻直杯全国中学生選手権とともに二冠を獲得。イラン・レスリングの強さを見せつけた。
ガレダギは「勝てたことがうれしい。自分のやってきたことを出し切れたと思います」と優勝の第一声。決勝は第1ピリオドで7-0、第2ピリオドの40秒で9-0まで攻撃し、一気に10点差をつけるかとも思われたが、そのままのスコアで終了した。テクニカルスペリオリティ勝ちを目指すことも考えたそうだが、相手も必死に粘るのが勝負の世界。「勝つことが第一でしたので」と、慎重な闘いを選択した。
相手の依田尚樹(長野・SAKU)とは、11月初めに三重・津市で行われた吉田沙保里杯津市少年少女選手権で対戦。そのときは6-3で勝ったものの危ないシーンもあり、強い選手であることは分かっていた。テクニカルスペリオリティはできなかったが、ポイントを取られたわけではなく、約1ヶ月前に手こずった相手に「これだけの試合ができたことは、うれしいです」と声が弾んだ。
全体を通じ、準々決勝で8-4の試合をするなど「危ない試合もあった。改善していかなければならない」と振り返るものの、6月の全国中学生選手権までは41kg級での試合。階級を上げて初の全国大会を無難に勝ち抜いたのだから、十分に合格点だろう。自身の強みを問われると「試合で得意技を出せること」と分析。「今がピークにならないように今後も頑張りたい」とつなげた。
父のガレダギ・シャハラムさんはイランでレスリングに打ち込み、来日してしばらくしたあとの2013年11月、都内に「イランレスリングクラブ」を設立。イランの国技であるレスリングへの思いと強さを、自身の子供を含めてクラブに通う選手に伝えてきた。
長男のガレダキ敬一(現早大)は2012~17年の全国少年少女選手権で6連覇を達成し、全国少年少女選抜選手権でも3度優勝というすばらしい成績。JOCエリートアカデミー時代の昨年はU17世界選手権で8位に入賞し、アジア・ユース大会で優勝。今夏の全日本学生選手権では1年生王者に輝き、現在まで変わらぬ強さを発揮している。
兄の快挙は当然刺激になっており、愛千は「背中を追いたい」と言う。吉田兄弟の活躍も頑張りにつながる要因。吉田兄弟の父であり市川コシティクラブを運営するジャボ・エスファンジャーニ代表にはクラブの垣根を超えて声をかけてもらっており、「同志として切磋琢磨し、頑張りたい」と話した。
来年も中学の全国2大会制覇が目標。ほかに、今年は都の予選で負けて出場できなかったU15アジア選手権代表選考会を勝ち抜いて国際舞台へ出ることを視野に入れ、飛躍を目指す。
シャハラム代表は「毎日きつい練習をやっています。よく頑張ったと思います」と話し、今季の二冠制覇は猛練習の成果と振り返る。決勝の相手の依田と津市少年少女選手権で接戦となったのは「ミスがあったから」であり、今回は慌てないことを念頭において闘わせた。9点差がついて一気に勝負を決めてほしいという気持ちもあったが、「私も慌てない」と言い聞かせて指示を出し、ミスなく試合を終えることができた。
いよいよ世界進出に踏み出す時期に来た。兄・敬一は海外でもある程度の結果を出しているので、「(愛千も)続いてほしいです」と期待する。
クラブのホームページには、「日本はタックルが上手な国ですが、タックルだけでは世界に勝つことはできません。ビックリするようなレスリングの技をたくさんお見せします」との説明がある。イラン・レスリングの奥義と伝統は、日本レスリング界が見習うべきこと。実力を磨き合う市川コシティクラブのエスファンジャーニ代表とともに、イラン・レスリング旋風が日本レスリング界を席巻するか。