2024.10.19

【2024年世界ベテランズ選手権・特集】有終の美と飛躍のレフェリング…若佐篤実審判員(福山通運)&浦田享審判員(富山・藤園南幼稚園)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 

 クロアチア・ポレチュで行われた2024年世界ベテランズ選手権には、若佐篤実審判員(福山通運)浦田享審判員(富山・藤園南幼稚園)が参加。若佐審判員は国際審判員の定年(60歳)を迎えるので、これが最後の国際大会参加となった。

▲2024年世界ベテランズ選手権に参加した若佐篤実審判員(左=福山通運)と浦田享審判員(富山・藤園南幼稚園)

 最後だけに、マット上で疲れるほど動き回りたい気持ちもあっただろうが、この大会は審判クリニック(3級審判員の2級への昇級試験)を兼ねており、2級審判の2人はどちらかというと“監督”の側。レフェリーではなく、マットチェアマンとしての起用が多く、ともにその表情にはちょっと物足りなさが浮かんでいた。

 それでも、フリースタイルの最終日には浦田審判員が、グレコローマンの最終日には若佐審判員が、それぞれレフェリーに起用された。若佐審判員は、国際大会のマットに上がるのはこれが最後。万感の思いをこめて試合をさばくと、全試合終了後、マット上でこれまでの功績を称えられ、記念品の授与が行われた。

 同審判員は「今年は海外に行く機会がないと思っていたんです。連絡があったときは、やはりうれしかったですね」と、最後の年に国際大会に参加できた巡り合わせを感謝し、けじめをつけられたことがうれしそうだ。定年となる年に機会を与えてくれた日本協会の沖山功審判委員長に「感謝したい」と話した。

▲マット上で国際大会の引退式がなされた若佐審判員=撮影・浦田享審判員

空港で待ちぼうけをくらったカザフスタンの思い出

 国際の資格を取ってからの20年の一番の思い出を聞くと、「どこも思い出深いですねえ…」と話した後、カザフスタンへの遠征のとき、何らかの手違いで空港への迎えがなく、白タクで約5時間かけて目的地まで行くなど、マット外でのトラブルの方が思い浮かんで来ると言う。

 そのときは現地の大会本部が白タクを用意してくれた。料金をぼったくられる心配はなかったが、途中でガソリンがなくなり、運転手に頼まれてガソリン代を貸すなど思いがけない事態に遭遇。ここで一緒だったのが浦田審判員で、2人で当時を思い出して大笑い。「きょうは、ホテルから『ドアを壊した』とクレームをつけられました。海外では、何か(予期せぬことが)ありますね」と笑う。

 会社員ではそうそう海外へ行くことができず、国際大会は7年間のブランクがあったときもある。審判規定が変わって2年に1度は国際大会を裁かないと国際ライセンスを失うことになり、自費でもいいので参加して資格のキープを考えたところ、運よく全日本チームの強化遠征があり、それがカザフスタンでの大会。国際ライセンスを保持するために神様が与えた試練だったのか?

▲最終日にレフェリーで起用された若佐審判員=撮影・浦田享審判員

 国内審判の定年は65歳なので、審判活動はまだ続ける予定。「中央(全日本レベル)の大会に呼ばれることはないと思いますが、後進の指導をするのも自分の役目でしょうから」と話し、中国地方の大会を中心にホイッスルを持つつもりだ。

日本選手のマナーのよさを実感する浦田享審判員

 全日本マスターズ選手権に選手として何度も出場経験のある浦田審判員は、審判としても豊富な海外経験があり、世界ベテランズ選手権は2014年のセルビア大会以来、2度目の参加。自身が昇級試験に参加するわけではないが、審判クリニックの大会ということで「初心に帰れる大会です」と言う。

 幅広い年代の選手が参加する大会に、レスリングは「エイジレス(年齢にこだわらない)」を感じたそうだ。レスリングは世界に広まっているスポーツということを実感し、「少子高齢化の時代、もっと盛んになる要素がある」と言う。他には、「日本の選手はマナーがいい」ということ。「ラフプレーはしないし、マットを下りたところでもきちんとしている」そうで、この日本のよさはあらゆる世代で受け継いでほしいと望む。

▲今大会は主にチェアマンを務めた浦田審判員

 2004年に国際ライセンスを取得し、2022年のU15・20アジア選手権(バーレーン)で2級へ昇格した。昨年、1級昇格試験を受けたが無念の結果へ。壁があることを感じた。

機会があれば1級、1S級にチャレンジしたい

 国内の審判員が1級や1S級(オリンピックを裁ける)に昇級したニュースを聞くと、「自分も、という気持ちはありますね」と話す。ただ、審判クリニックは3スタイル実施の大会での開催が多く、職場を長期間休む必要がある。周囲の理解が必要で、自分の思いだけで参加できるものではない現実も理解している。

 それでも、機会があれば1級、1S級を目指したい意欲はある。昇級に必要と思うことを聞くと、「常に学ぶことだと思います」との答。闘いのパターンは数え切れないほどあり、レフェリングもそれに対応しなければならない。「常に勉強という気持ちで、向学心をもって裁くことが必要なんじゃないかな、と思います」と言う。

▲フリースタイルの最終日にレフェリーを務めた浦田審判員

 言葉(英語)も必要。周囲は、日本人いうことで、(英語は母国語ではないと)理解してくれる面はあるが、きちんとしたコミュニケーションをとるためには、語学のマスターが必要条件だ。

 学生時代から親しんできた審判活動。東日本学生連盟が審判員の育成のため、リーグ戦でゴールデンホイッスル賞を表彰することになり、その第1回の受賞者だという。「隠れた誇りなんです」と話し、今後も審判活動に力を注ぐ。