※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治)
「オレがオリンピック!? マジかぁ?」
男子フリースタイル74㎏級3位決定戦をゲオルギオス・コウギオウムチディス(ギリシャ)と争い、第2ピリオドに6-4から堂々フォール勝ち。前日の樋口黎(ミキハウス)に続きパリ・オリンピック出場を確定させた高谷大地(自衛隊)は、意気揚々とミックスゾーンに引き上げてきた。
銅メダルを獲得した瞬間、セコンドについていた米満達弘コーチ(自衛隊)と熱い抱擁をかわす姿が印象的だった。案の定、開口一番、コーチへの感謝の言葉を口にした。「この1年間、米満コーチは僕のことばかり考えていてくれた。そういうコーチがいたからこそ、僕は競技に専念できた」
とはいえ、今回は「よくぞここまで到達した」と拍手を送りたくなるほど、高谷は厳しいブロックにいた。初戦は65・70kg級時代に世界王者に輝いているフランク・チャミゾ(イタリア=元キューバ)との対戦になった。
第1ピリオドから深く入るローシングルでチャミゾのスタミナを削り、第2ピリオドになると逆転に成功する。さらにフォール寸前まで追い込む猛攻を見せ、歴史に残る古豪を7-2で撃破した。他国の選手や関係者が見てもビッグアップセットといえる幕切れだ。
「ウォー!」
残った力を振り絞るように発した高谷の勝利の雄叫びに観客は万雷の拍手で応えた。
「チャミゾを破ったことで、行けるんじゃないかと思った」
勢いに乗った高谷は、その後、メキシコ、ハンガリーの選手を連破する。しかし、準々決勝では超難敵といえる対戦相手が待ち構えていた。この階級では2年連続世界の頂点を極めているカイル・デイク(米国)。そんなこの階級のトップ中のトップを相手に高谷は互角に渡り合う。
アクティビティタイムで1点の先制を許すと、ローシングルから持ち上げバックに回り2-1と逆転に成功する。第2ピリオドになると、高谷は両足タックルで4-1とさらにリードを広げた。デイクはここから本領を発揮する。4-4とスコアをイーブンに戻すと、試合終了間際相手を場外にステップアウトさせ5-4と再び逆転した。
その直後、高谷が片足タックルを決めたと思われる場面があり、セコンドはチャレンジを申請したが、これは認められず4-6で惜敗した。試合後、高谷は「クッソ~ッ、勝てた」と悔しさを露にする一方で、冷静に激闘を振り返った。「これが俺の弱さ。あそこでとり切ってくるデイクはやはり世界王者だと思う」
チャミゾを破った興奮、デイクにあと一歩というところまで迫ることができた充実感…。さまざまな思いが脳裏をよぎった。
「正直、全試合、勝てるつもりはなかった。もちろん、試合前は世界王者を倒すとか宣言するけど、ウチの兄貴(高谷惣亮)みたいに自分を過剰に鼓舞するのは苦手なんですよ。とにかく米満コーチと一緒に、一戦一戦やれることをすり合わせていくしかなかった」
結局、デイクとチャミゾと闘った日は一睡もできないまま、翌日を迎える。ヌルコジャ・カイパノフ(カザフスタン)との敗者復活戦を5-3で制して3位決定戦へ。そしてフォールというハッキリした形で高谷は勝利をもぎとった。
「正直、ここまで来られてうれしい、というのはある。本当に(世界の第一線との)差はなくなったなという思いはありますね」
急成長を遂げた要因のひとつとして、高谷は妻、友人、チームメイトとの自分がどんな立場でも変わらない“絆”を強調した。「たとえ練習がうまくいかなくても、いつもとの同じように接してくれる。折れそうな心を、どれだけ支えてもらったかわからない」
去年の世界選手権は同じ階級で10位だったが、分厚くなった胸や太股を目の当たりにしたらまるで別人。努力を重ね、自分の強さや弱さを客観的に見つめることで、高谷は我々が想像する以上に成長していた。
来年夏には、パリでも「オレがオリンピック・メダリスト!? マジかぁ?」と絶叫してほしい。