※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
日体大陣営から「試合順が違っていたら、負けていたかもしれない」という声が出るほど、接戦が続いた2023年東日本学生リーグ戦の天王山。山梨学院大は青柳善の輔主将(70kg級)が圧勝し、成長著しい五十嵐文彌(86kg級)が分の悪い相手に攻め勝つなどの実力を発揮したが、わずかの差で屈し、昨年に続いて2位に終わった。
全試合が終わると、悔しさのあまり泣き出す選手も。円陣を組んでのミーティングでは、高橋侑希コーチも悔し涙で声を詰まらせながら選手の激闘をねぎらった。小幡邦彦監督は「こういう接戦続きの展開になるとは思っていた。出場した選手は、今持っている力を出し切ってくれたと思う。相手は一枚上でした」と、日体大の強さを素直に称えた。
全勝が堅いと思われていた57kg級の小野正之助をろっ骨の負傷で欠き、想定外の状況でリーグ戦に臨まねばならなかった。しかし1年生の勝目大翔(静岡・飛龍高卒)が踏ん張り、その穴を埋める活躍。決勝グループ初日で2戦2勝。その勢いで、日体大の西内悠人にも勝てるのでは、との期待を抱かせてくれた。
結果は、第1ピリオドを0-1で粘る接戦。最後は1-5で敗れたが、U20世界王者相手と競り合ったことでチームのムードは悪くなく、この勢いを続く青柳善の輔主将が快勝という形で表し、試合の流れを引き戻した。
だが、王者・日体大はこのあと2試合を勝つ強さ。“王手”をかけられ登場したのが荻野海志。清岡幸大郎相手にがぶり返しのような技で4点を先制。さらに、場外際の攻防でうまい身のこなしを見せて5-0へ。ここで日体大陣営からはチャレンジのスポンジが投げられたが、清岡がこれに同意せず、5点差で試合再開。
この清岡の判断が勝敗のかぎだったかもしれない。チャレンジが失敗すれば6点差。わずか1点の違いだが、5点差のまま試合を再開したことで、清岡に反撃の気持ちがより強く残っていたのだろう。清岡のポイントが増えていき、いつしかスコアが逆転した。
小幡監督は「清岡選手のキャプテンの意地、4年生の意地でしょうね」と、相手選手の粘りを認めた。場数の差、とも分析する。清岡は昨年のリーグ戦でも、3勝3敗のあとのチームの勝利がかかる試合に出場して白星を挙げた。対して荻野は、大学王者になるなど急激に実力をつけているものの、ここまで緊張する場面での闘いの経験はなかった。
「この試合が荻野の今後に絶対に役立つでしょう。終わったことは仕方ない。次に向けて頑張らせたい」と前を向いた。
終わってみると、層の厚さの差が勝敗の差だったと言える。日体大は初日、2日目と、ときに控え選手を起用しながら、最終戦の山梨学院大戦を迎えたのに対し、山梨学院大は主力がほぼ全試合に出場。上の階級に起用した試合もあった。
それを言い訳にすることはないだろうが、3日間で5~6試合を闘い抜くのは、体力、小さなけが、集中力といった面で少なからず影響があるはず。ワンマッチの闘いなら、勝敗は変わったかもしれない。
ただ、小野が負傷すれば勝目が踏ん張るなど、階級によっては“Wレギュラー”の状況も出てきた。昨年も、61kg級で榊流斗(現クリナップ)が負傷欠場したが、森田魁人が穴を埋めた。より多くの階級でこうした状況に持っていけるのが理想。
来年のリーグ戦で日体大の連覇をストップするには、中重量級で控え選手がレギュラー選手を突き上げ、多くの階級で“Wレギュラー”の布陣をつくることだろう。
2番手、3番手の選手を含めたチームの力の結集でこそ優勝がある、と感じさせてくれた今年のリーグ戦。今季の闘いは始まったばかり。11月の全日本大学選手権までの両チームの踏ん張りが期待される。
■青柳善の輔主将の話「優勝してもおかしくない戦力でした。来年、再来年はもっと強くなるチームだと思いますので、期待しています。小野正之助が出場できなかったのは痛かったですが、勝目大翔が頑張り、ひと皮向けてくれたと思います。小野と勝目が大学の1位、2位を占めるようになると思います。新人が活躍できたことはよかったです。(11月の全日本大学選手権では)他大学には絶対に負けない。日体大にも絶対に勝ちます」