※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
東日本学生リーグ戦で6度、全日本大学選手権で7度の優勝の実績を持つ日大。最近でも学生王者や大学王者は断続的に生まれており、学生の全日本王者もいる(2017年=白井勝太・石黒峻士、2020年=石黒隼士)。強豪大学の一角を占めていることは間違いない。
ただ、団体優勝となると2014年全日本大学選手権が最後。リーグ戦では、現在の試合方式になった2014年からは「4位」が最高だ。2021年全日本大学選手権で2位、昨年の同選手権でも3位に入り、優勝を目指せる位置をキープしているだけに、OBや応援者からすれば、もどかしい思いが続いている。
昨年の東日本学生リーグ戦は、3すくみの内容差によって7位に終わった。今年のリーグ戦は、予選リーグで全階級に強豪を擁する山梨学院大と同ブロック。男子最年少のアジア王者(吉田アラシ)が生まれた日大だが、厳しい闘いに挑まねばならない。鈴木光監督は「(上位チームに)胸を借りる立場。精いっぱい闘い、すきあらば(上位へ進む)、という気持ちです」と話す。
その日大に、警視庁で選手を指導していた齊藤将士コーチ(41歳)が、4月から教員としてコーチに加わった。日大教員としての指導陣加入は、富山英明・前監督(現日本協会会長)以来。
齊藤コーチは、2007年アジア選手権優勝など選手時代の実績は十分。指導者としては、全日本女子チームのコーチを長く務め、2度のオリンピック(2012年ロンドン、2021年東京)のほか、世界選手権やアジア選手権など数多くの国際大会でセコンドを務め日本代表選手を支えた。最近では警視庁第六機動隊少年レスリング部のコーチとして、続けざまに中学王者を誕生させている。
これまでにも外部コーチとして選手を指導しており、週何度も練習に顔を出していた。だが警視庁所属の人間であり、当然のことながら警視庁の仕事や活動が優先だった。今後は、もちろん日大教員としての仕事が第一となるが、より近い立場でチームを見ることができる。
齊藤コーチは「責任がこれまで以上に出てきます。緊張もします」と話す一方、「それに押しつぶされるようなことはないです。レスリングが好きですから」と話し、毎日マットに上がれる生活が楽しそう。
「練習をやらせるのではなく、学生が率先してやるようにもっていく」が基本方針。そのため、選手とはこれまで以上にコミュニケーションをとっていきたいそうだ。自身はこれまで「レスリングが嫌だ」と思ったことは一度もないそうで、「練習が楽しい、と思えることが一番です」と強調する。
リーグ戦は、アジア王者に輝いた吉田アラシのほか、57kg級の佐々木風雅と70kg級の渡辺慶二という昨年の学生王者、昨年のリーグ戦で4勝1敗と好成績をマークしている田下奏樹主将を中心に挑む。125kg級には昨年の全日本選手権2位と急成長している藤田龍星がいるが、リーグ戦は97kg級がないため、吉田との併用となる状況は無念。
齊藤コーチは「だれかが負けたら、他が頑張る、という団体戦の基本で臨みたい。サポートする学生にも期待したい」と、出場選手の奮起とチーム一丸となっての闘いを期待する。昨年の全日本大学選手権で、出場8選手の全員がファイナル(3位決定戦・決勝)に残った総合力を武器に、まず山梨学院大のいるリーグでの闘いに挑む。
日大には、金浜良コーチ(サントリー)の関係で、東京オリンピック金メダリストの金城梨紗子・川井友香子姉妹(同)が練習に参加している。都心に近いので(東京都世田谷区)、他チームの選手も来やすい場所。時に須﨑優衣(キッツ)ほか多くの全日本トップ選手が出げいこで参加してくる。
オリンピック金メダリストのいる練習は、周囲に刺激を与える。鈴木監督は「オリンピック選手の練習の姿勢を見るだけで、気持ちが違ってきます」と話す。それは自身の現役時代に経験している。先輩の谷津嘉章(のちにプロレスラー)がモントリオール・オリンピックに出場し、「『同じ練習やっているんだ、オレたちも勝てるんだ』という意識になった」と振り返る。
鈴木監督が全日本選手権で初優勝したのが、モントリオール・オリンピックの翌年であり、その翌年は富山英明・前監督が全日本選手権で初優勝。世界チャンピオンにも輝いた。
「だれか一人が好成績を挙げれば、『この練習で間違いない』という気持ちになって、練習に力が入るものなんです。オリンピック金メダリストがいて、アジア王者がいる練習環境は大きいです」と、現チームの今後に期待する。
同監督は、現場の指導の主体を齊藤コーチに託すとともに、「根本は日大の教員。レスリングのため仕事に穴をあけては、今後に響く。まず日大教員としての立場を固めてほしい。それまでは自分や外部コーチがしっかり支えたい」と話し、時に自分が前面に立ちつつ、齊藤コーチを全面的にバックアップする心づもりだ。
齊藤コーチは、日大教員としてのコーチ就任を機に、「日本大学ジュニアレスリングクラブ」を設立。キッズや中学世代の選手育成にも取り組み、一貫強化体制を目指す。「レスリングが好きになってくれれば、それでいいです」と、選手の進路を拘束するつもりは毛頭ないが、いずれ、そこで育った選手が日大のシングレットを着て貴重な戦力となることは間違いない。
鈴木監督のバックアップを受けつつ、“齊藤体制”が最初のリーグ戦に挑む。