※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
東日本学生連盟の会長に、同理事長として数々の改革を実行した吉本収氏(神奈川大職)が昇格して就任した。ここ数年、女子学生委員長の誕生、大会パンフレットのデジタル化、リーグ戦での連合チーム結成など “慣例を打ち破る”改革を数多く実行してきた“革命家”。会長就任にあたっても、「前例がないからやらない、という姿勢は持たない」ときっぱり断言。これからもベンチャー精神を発揮していく予定。現在53歳。若返った会長の手腕で、同連盟のさらなる活性化が期待される。学生レスリング改革への展望を聞いた。
――会長就任から約2ヶ月が経ちました。年度が変わって、いよいよシーズンが始まりましたが、今のお気持ちは?
吉本 連盟主催の大会がまだ行われていないので、今のところ実感はないです。ただ、私は神奈川県協会の副会長も務めていまして、JOCジュニアオリンピックの運営に携わったほか、U23世界選手権の代表選考会を連盟と日本社会人連盟とで運営しましたので、そちらの活動で追われていた、というのが現状です。コロナ禍も連休明けから新しい段階となるため、難しい舵取りになりますが、新しい時代のスタートを切るべく、東日本学生リーグ戦の成功に向けて取り組んでいる状況です。
――昨年のリーグ戦は無観客大会でした。今年は観客を入れる大会になりますね。
吉本 有観客大会です。駒沢体育館が改築で2年間使えないので、屋内球技場での開催になります。会場の構造上、応援する場所が限られているので、今年までは無観客大会ということも考えました。しかし、コロナの制限が解除されつつあり、今年も無観客というわけにはいかないでしょう。
――団体戦の場合は、応援によって会場が盛り上がりますね。
吉本 チーム応援あってのリーグ戦です。両側にある観客席の前3列部分を、試合をやっている大学の応援席とし、入れ替え制で行うことを決めました。
――同球技場は、駒沢体育館のようなウォーミングアップを行うスペースがないですね。
吉本 ないです。会場の都合で、それはどうにもならない。狭いですが、ロビーの隅でやってもらうか、試合間隔をとって、そこでしっかり汗を流してもらうかです。相手も同じ条件なので、各大学に納得してもらうしかありません。
――予選リーグを経て決勝リーグをやる今の方式になってから、今年が10年目です(コロナによる中止を含む)。そろそろ、試合方式の変更や一・二部の改編を考えてもいい時期ではないでしょうか。
吉本 数年前から出ていることです。前任の朝倉利夫会長が4年前に就任したとき、試合方式などについてのアンケートをとったのですが、変えなくていい、という意見が過半数で、そのまま来ました。このやり方が駄目、ということではなく、10年一区切りですので、そろそろ新しい試合方式を取り入れてもいいのではないかな、と思います。
――今のルールですと、初日の予選リーグで2位になってしまうと、その後の決勝リーグでは最高でも5位にしかならず、優勝を目指していたチームのモチベーションがぐっと下がる現実がありました。最初に1敗しても、優勝を目指して頑張れる闘いこそ、リーグ戦の醍醐味ではないでしょうか。
吉本 何も変えず、「今まで通り」と言うのは、確かに楽ですが、いいものを目指して行動しなければならない。私は、今の一部16大学での闘いが問題だと思っています。上位チームと下位チームの試合は、一種の消化試合になっています。きつい言い方をすれば、下位チームが「絶対に勝てない」という気持ちを持った無気力試合になっています。上位チームもやりがいを感じない。一部リーグと二部リーグの境目を変えることが先決だと思っています。
――何年も論じられていたことですね。一部リーグを外れることによって、「推薦枠が少なくなる」「大学からの予算が少なくなる」などの理由で反対の声が挙がります。
吉本 この話が出るたびに、「普及も重要だ」という声が出て、それに押し切られていたのが現状です。大学によっては、学内から「24大学あって、なんで16大学と8大学に分かれているんだ?」という声が挙がっているのも事実です。反対意見が出ることを覚悟しながら、ここを変えなければならないと思っています。
――最終日の最終戦が、事実上の決勝戦にならないときもあります。最後が決勝戦であってこそ、大会が盛り上がると思います。
吉本 そういうマイナスはありましたね。検討材料です。
――オリンピック階級の97kg級が存在しない大会であっていいのか、ということも当初から言われていました。
吉本 その問題もあります。選手数が少ない階級ですので、97kg級と125㎏級の2階級で選手を出せる大学が多くないのが現状です。そこが悩みどころですが、先を見ながら改革を進めていきたい。
――吉本会長が理事長だった時代、多くの改革を実行しましたよね。そのひとつに、パンフレットのデジタル化に踏み切ったことがあります。パンフレットは印刷して各チーム・選手に渡すもの、という先入観を打ち破ったことは評価できると思います。
吉本 パンフレットを試合後も大事に持っている選手はいない、と言っていいでしょう。終わったら捨てるだけ。多めに印刷するのが普通ですから、未使用のパンフレットが大量にあまり、倉庫に積み上がって、最後は捨てることになります。捨てるにも費用がかかります。そういう状況を見て、何とかしなければ、と思っていました。デジタル化にしたことへの不満はほとんどなかったですし、1大会あたりの経費が数十万円、安くなりました。
――昨年、部員が少ないチームが連合してリーグ戦に参加できる制度をつくり、東北学院大と国際武道大が連合チームをつくって参加しました。これもヒットだったのではないでしょうか。
吉本 実を言いますと、最初は役員間の雑談の中で出てきたことなんです(笑)。そのうちに、実現できるのでは、となっていきました。制度をつくっても参加する大学があるかな、と半信半疑だったのですが、初年度から乗ってきた大学があり、その連合チームが2位に入る健闘。試合後は感謝の気持ちを述べてくれ、結果としてよかったです。大学間の交流ができたと言ってくれたことも、この制度の成果だと思っています。
――女子のリーグ戦の実現は、西日本学生連盟に先を越されましたね(今年の西日本学生春季リーグ戦で実現)。
吉本 やるとすれば、時期と会場ですね。今の3日間のリーグ戦の中に組み入れるのは、スケジュール的に無理です。かといって、4日間連続で取れる会場は、首都圏にはそうそうありません。女子のリーグ戦のみを単独でやるとなったら、経費の問題とかが出て来て、思うように進みません。男女平等の観点と女子の普及のために、実施できればいいとは思っています。
――大学が始めれば、高校も女子の団体戦開催を目指すかもしれません。
吉本 そうなれば、選手を集めるため、一般生徒の勧誘にも力が入り、高校女子の普及につながると思います。女子の普及ということでは、連盟の活動に女子のビーチを入れられないかな、と思っています。2028年ロサンゼルス・オリンピックで女子ビーチが採用される可能性が高まっています。そうなれば、来年には学生でビーチに取り組む必要があります。
――ビーチの場合、会場の問題がありますね。
吉本 私は今、神奈川県平塚市に住んでいます。地元の湘南ベルマーレ・スポーツクラブがビーチバレーもやっていて、海岸にはビーチバレーのコートがあるんです。そこを借りてできるかもしれない、と思っています。東京から遠いのが難点です。
――東京・台場で全日本ビーチ選手権をやったこともあります。インカレの翌日に、場所を移して全日本学生女子ビーチ選手権を開催するのも一案なのでは?
吉本 日程や経費の問題もあって、簡単には進まないとは思いますが、「できない」という前提のもとでは、前進はありません。「どうやったらできるか」という観点から論議していきたい。「前例がないからやらない、できない」という姿勢は持ちません。壁があるのなら、それをぶち破るために知恵を集めたい。
――ここ数年の東日本学連の活動は、本当に先進性に富んでいますね。改革の今後の展望は、いかがでしょうか。
吉本 連盟にはホームページがなく、そこが弱点だと思います。時代は、ホームページを飛び越えてインスタグラムなどのSNSです。これの充実なくしてレスリングの発展はないでしょう。これらに詳しい若手指導者や専門の人に相談しながら、クリエイティブに取り組んでいきたい。
また、全国高校選抜大会を観戦して、学校対抗戦に不戦勝が多いのが目立ちました。少子化で高校での選手集めが難しくなってきていることの証明であり、これが数年後に大学へ影響してくると思います。特に、ジュニア(キッズ)からの経験値の高い選手が増え、高校からレスリングを始めた選手がなかなか勝てなくて自信を持てず、大学進学後はレスリングに取り組まないという話を聞きます。こういった状況を打破するため、大学の魅力をアピールできるような取り組みをしたいですね。
――チャレンジの際のビデオについては、いかがでしょうか。双方向からの撮影というのが時代の流れ。昨年の全日本選手権ではそれを導入し、好評でした。
吉本 先立つもの、ですよね(笑)。財源がふんだんにあれば、やりたいことはたくさんあります。連盟としても協賛企業を求め、財政の充実も目指し、「動く会長」として務めていきたい。