※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治)
「アジア選手権に3回も出る機会があって、初出場のときからメダルを取りたかったけど、取り切れない自分がいた。今年は初めて銅メダルを取れ、ちょっとホッとしています」
“三度目の正直”で手にしたアジア選手権のメダル獲得を手土産に、男子グレコローマン77㎏級の櫻庭功大(自衛隊)は、開催が近づいてきた2022年天皇杯全日本選手権でのさらなる飛躍を誓う。
今年10月の栃木国体では、全日本選抜選手権2位の前田明都(レスターホールディングス)や、その2週間後に全日本大学グレコローマン選手権を制した水口竣介(拓大)らを破って優勝した。「全日本選手権に向けての大会だったので、いい再スタートを切れたと思っています」
「再スタート」というのは、アジア選手権終了後、左足首の手術に踏み切ったからだ。そのため、6月の明治杯全日本選抜選手権は欠場を余儀なくされ、国体は復帰戦の舞台だった。
手術は関節の中に軟骨や骨のかけらが出てくる通称“関節ネズミ”だった。無症状のケースもあるが、関節の狭い隙間にはさまったり引っかかったりすると、強い痛みと可動域制限を引き起こす。ひじにこの故障を抱える野球の投手は少なくない。
昨年12月のこの大会の直前にけがをして、「それからずっと痛みが出たり出なかったりの繰り返しだった」と言う。「アジア選手権の前にも足首を痛めてしまったので、コーチと相談して『終わったら手術しよう』と決めていました」
幸い、手術後1ヶ月でマット練習に復帰することができた。「そのあとはリハビリをしたり、練習をしたり…。少しずつ調整をしながらやってきました。焦りはなかったですね」
欠場した全日本選抜選手権は、いつも闘う選手たちがどのような技を持っているのかなどを分析しながら熱心に観戦した。
「この階級には屋比久選手(翔平=東京オリンピック銅メダリスト)はもちろん、前田明都選手(前述)、日下尚選手(日体大=学生王者、U23世界3位)、さらには自衛隊の同僚も含めて下から追い上げてくる選手もいて、強い選手ばかり。『足元をすくわれないようにしないと』と思いながら見ていました」
本人の記憶によれば、この階級の頂点に君臨する屋比久とは過去に5回ほど対戦。2018年の全日本選手権準決勝では5-3で勝利を収めている。櫻庭は「あのときは、たまたま勝っただけ」とおごらない。「あの勝利で自信がついたというより、『次も勝たないと』という思いが強くなりました」
幸い、今はもう左足首に違和感や痛みはない。復帰に向け、ウエートトレーニングに力を入れたおかげで、「全体的にパワーアップした」と胸を張る。「どんな大会にもチャレンジャーの気持ちで挑むけど、今回もそう。油断しないで、しっかり自分の足で立ちながら勝ち抜いていきたい」
コロナ対策の一環として、現在は当日計量に加え、当日抽選というルールの下で行われている。試合開始の約30分前にならないとトーナメントの組み合わせが分からないという状況については、全くといっていいほど気にしていない。
「そのときの自分の動きをしっかり感じながら、何時間後に自分の試合なのかを想定しながら準備しています。慌てることはないですね」
櫻庭は自分の試合が近づいても、そんなに緊張はしないと打ち明ける。「むしろ、もう少し緊張してもいいかな、と思っている。緊張しすぎるのはよくないけど、緊張とリラックスの狭間でいい状態を作り上げていきたい」
パワーアップした新しいスタイルで勝ち上がり、屋比久の牙城を崩すことができるか。