※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【ベオグラード(セルビア)/文=布施鋼治、撮影=保高幸子】セルビアで開催中の世界選手権第5日(9月14日)。女子65㎏級で初優勝を果たした森川美和(ALSOK)にとって、日の丸をはためかせてのウイニングランは大きな意味を持つパフォーマンスだった。
その理由を聞くと、森川は「いつも自分は2位が多かったので」と話し始めた。つまり決勝まで進出したにもかかわらず、涙をのむ機会が多かったということだ。
昨年の世界選手権もそうだった。
「(2位に終わって)セコンドに国旗をしまわれるシーンを目の当たりにして、心にグサッと来ていました」
せっかく用意してもらった日本国旗なのに、自分の番になると再びたたまれることになる。森川は悔しくて仕方なかった。だからこそシニアの国際大会では初めてのウイニングランの味は格別だった。
一方で、反省することも忘れない。世界一になったとはいえ、初戦から決勝までの3試合とも満足のいく試合内容ではなかったからだ。森川は「まったく納得していない」と唇をかんだ。「まだまだ自分の実力は足りないと思いました」
3試合とも無失点だったが、いずれも判定決着だった。シア・ロン(龍佳=中国)との決勝もそうだ。ロンとは以前に闘ったことがあり、8-6と混戦の末、勝利を収めているが、今回はロースコアの攻防になった。結果は2-0で、森川が返り討ちにした格好となった。
「中国の選手も、自分を研究して挑んできたと思う。自分のコーチ(日体大の田南部力&伊調馨)と相談して、技を対策してきました。それができたことはよかった。でも、テクニカルポイントが取れなかったことはよくなかったですね。コーチから『しっかり取るように』と言われていたけど、自分のいいところが全く出せなかった」
とはいえ、この1年で着実に成長していることは確か。今回は、最近毎日のように実施している男子選手との練習が役立ったという。「どんな相手と闘っても、大学にいる男子の世界選手権代表より強くない、と思うことができました」
先日、筆者もたまたま日体大の松本慎吾監督の胸を借りる森川のぶつかり稽古を見る機会に恵まれた。やられても、やられても、必死にぶつかっていくひたむきな姿が印象的だった。そして「こういう練習を続けていたら絶対に強くなる」と確信した。
この日、森川より先に50㎏級で優勝した須﨑優衣(キッツ)とは、同年齢ということもあり仲がいい。今回もアップ場で戦闘モードに入っていると、優勝を決めたばかりの須﨑から声をかけられた。「絶対大丈夫だから、自信を持ってやってきて」。
森川は「よし、やってくるわ!」と、胸を大きくたたいた。「須﨑選手の一言一言に、すごく勇気づけられる。同期だけど、本当に尊敬している選手ですね」
昨年の世界選手権決勝を争ったイリナ・リンガシ(モルドバ)は68㎏級にアップしたので雪辱する機会はなかった。2024年のパリ・オリンピック出場を目指す森川も、12月の全日本選手権から階級をオリンピック階級である68㎏級に上げる予定でいる。
「私にとって65㎏級はステップアップのための階級。来月はU23世界選手権(スペイン)があるので、そこでもしっかり優勝して、次の階級につなげられたらと思います」
社会人となった現在も練習の拠点である日体大では、「優勝しても喜ぶのはその日だけ」と教えられている。来年の世界選手権で社会人2年目となる森川は、今回よりさらに充実した笑顔を浮かべながらのウイニングランを魅せることができるか。
もう目の前でたたまれる日の丸は見たくない。