※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治)
「自分の実力で代表の権利をとったわけではないけど、運もあって、せっかくもらったチャンスなのでやるしかない。出るからにはメダルをとりたい」
男子グレコローマン72㎏級で2022年世界選手権(9月10~18日、セルビア)に出場する堀江耐志(自衛隊)は、野望に燃えている。この階級は昨年12月の天皇杯全日本選手権と今年6月の明治杯全日本選抜選手権を制した井上智裕(FUJIOH)が出場権を獲得していた。出場を辞退したため、代表選手選考基準により、全日本選抜選手権2位の堀江が出場することになった。
「世界に通用すると思える自分のテクニックは、リフト技などグラウンドでの攻め。ただ、足りないところの方が多い。短期間で大きく成長するのは無理だけど、大会までにやれることはしっかりやりたい」
昨年のアジア選手権(カザフスタン)では3位に入賞したが、今年7月の「ピトラシンスキ国際大会」(ポーランド)では1回戦でテクニカルフォール負け。敗者復活戦でも涙をのんだ。
堀江は「グラウンドでの防御の弱さが出てしまった」と振り返り、そこが最大の課題と捉えている。「グラウンドの防御を重点的にやっていきたい。それと、日本だとパワーの差を感じないけど、海外勢は馬力が違う。外国人特有のパワーを感じましたね」
レスリングは中学1年生のときから、のちに母校となる和歌山東高にあったレスリング・クラブで始めた。「父の知人がレスリングをやっていたんですよ。その人とたまたま会う機会があったんですけど、メチャクチャごつかった。その頃の自分はまだ小さかったので、そのごつさを見て、カッコいいと思ったことが始めるきっかけでしたね」
それまでは水泳、体操、バスケットボールなどをやっていた。「中でも体操は結構真剣にやっていて、才能があるんじゃないかということで(2012年ロンドン・オリンピック出場の)田中理恵さんのお父さんがやっている上のクラスにも行きました。体操は幼稚園からやっていたので、身体能力はいい方だと思いますね」。
その体操をやめてレスリングに転向した理由は? 「僕、めっちゃ体が硬いんですよ(苦笑)。それで挫折してしまったけど、体操で培った体の使い方はレスリングにも活かされていると思います。けがもあまりしないので」
グレコローマンを選択した理由は? 「投げるのが楽しそうだと思って実際にやってみたことが発端ですね。高校時代、グレコローマンの先生が結構多かったので、やる機会が多かったことも大きい。選択して正解でした」
堀江は自分の強みを、どんな舞台でも平常心で望めることと分析する。
「自分は緊張しないタイプ。初めての世界選手権とはいえ、平常心で闘えると思いますね。時差ぼけ? 全然なんとも思わない。食事も、現地の食事で大丈夫なので、日本食はあまり持っていかない。現地で何かもらえる日本食があればもらいますけど、あまり気にしないですね」
今年12月の全日本選手権からは2024年パリ・オリンピックを見据え、オリンピック階級である77㎏級に上げるつもり。堀江にとって今回の世界選手権は72㎏級の卒業マッチになる。
大学は山口県にある徳山大学(現周南公立大学)に進んだ。その後、自衛隊のある埼玉に住んでいるが、いまだ関西弁を話すピンチヒッターは、ベオグラードでどんな闘いを魅せてくれるのか。