※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
日本のグレコローマン、いやレスリングを引っ張ってきた文田健一郎(ミキハウス)が、9月10日開幕の世界選手権(セルビア・ベオグラード)の男子グレコローマン60kg級で3度目の世界一を目指す。
2017・19年と世界王者に輝いたが、昨年の東京オリンピックでは悔しい銀メダルだった。「やっぱり2番じゃ駄目だなと思った。1番って特別なことだとすごく感じた。2番では自分の中では喜べないし、誇れない。もう一度、世界一の称号を取り戻しにいく」と話す表情には、頼もしさが自然と漂った。
東京オリンピックの決勝は、ルイス・オルタ・サンチェス(キューバ)に1-5で敗れた。相手に徹底的に研究され、代名詞とも言える切れ味抜群の「反り投げ」は、決勝のみならず大会を通じて封じられた。「投げをずっと狙って、隙があったら行く、というスタイルでしたけど、それでは限界があると感じた。自分が主導で前に出ていかないといけない」。
負けた悔しさは消えないが、進化すべき姿はクリアだった。3ヶ月の完全休養を経て戻ったマットで迷いなく新たな強さを追い求めた。あえて押しが得意な選手と胸を合わせ、投げにはいかずに6分間の押し合いに挑むなど、推進力を高めた。
よりプレッシャーを掛ける展開をつくれれば、投げへのプラスアルファも大きい。「投げもより決まるようになった。自分のタイミングで、行こうと思った瞬間に行けるようになった」と手応えは十分な様子だ。
その進化は言葉だけでなく、闘いぶりで証明している。復帰戦となった6月の明治杯全日本選抜選手権では、攻め手をゆるめることなく制覇。7月の「ピトランシスキ国際大会」(ポーランド)では力強く前に出続けて、堂々の優勝を果たした。
今年の世界選手権でオルタ・サンチェスは不在だが(63kg級にエントリー)、4月のアジア選手権を制したジョラマン・シャルシェンベコフ(キルギス)や欧州王者のケレム・カマル(トルコ)らが名を連ねる。2024年パリ・オリンピック出場枠が懸かる来年の世界選手権を見据えても、貴重かつ大切な闘いになるだろう。
全日本チームの最終合宿前には、練習拠点でもある母校・日体大の後輩には、日本のグレコローマン軽量級の強さを証明することを誓った。「(日本の強さは)先輩達が築きあげてくれた。自分も限界までやり続けて、価値をもっと上げていきたいな、と思います」と責任感をにじませる。
7月には一般女性と結婚したことも公表。吉報に祝福が相次いだ。愛妻の支えについて「本当に大きい。食事のサポートもしてくれて、競技者としての生き方にも賛同してくれる。本当にありがたい」と感謝する。今年12月で27歳になる。心身充実の一途で臨む好漢は、再び日の丸を胸に金メダルの夢へと走り続ける。