※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(試合写真=保高幸子)
全日本選手権でトップを占めた選手のみならず、現役の全日本王者も参加した2022年ドン・キホーテ杯全日本ビーチ選手権のシニア中量級。大激戦を勝ち抜いたのは、2017年大会の軽量級チャンピオンで、前回大会(2018年)は中量級で勝った阿部宏隆(茨城・水戸スポーツ少年団)。40キロほど離れたところにある鹿島学園高校のインターハイ優勝第1号選手で(関連記事)、地元大会をしっかりと盛り上げた。
初戦を勝ったあとの相手が、男子グレコローマン72kg級の井上智裕(昨年の全日本選手権優勝&今年の全日本選抜選手権で2連覇)、男子グレコローマン85kg級などで活躍した岡太一(全日本選手権4度優勝)、男子フリースタイル74kg級の梅林太朗(今年の全日本社会人選手権優勝)という、そうそうたる選手。
阿部も、昨年の全日本選抜選手権は男子フリースタイル70kg級で2位に入っており、今年6月の全日本選抜選手権にも出場しているが、今年から家業を継ぎ、第一線を退いている。「遊びで出たんですよ。組み合わせを見て、『マジかよ』と思いました」と振り返るが、一瞬で勝負が決まるビーチレスリングでは、「何が起こるか分からない」と考え直し、「あきらめずに頑張ってみよう、と思いました」と言う。
ビーチは、どちらかというとグレコローマンに似ており、上半身の攻防が大きなウェートを占める。グレコローマンの現役全日本王者(井上)に対して、組んだ瞬間に「強い! どうやったら勝てるんだ」と思ったそうだが、粘りに粘って最後に貴重なポイントをゲット。「あきらめないことがよかったです」と振り返る。
大会本部でも正確な記録はとっていないが、規定の3分間を闘ったのはこの試合だけだったと思われる。早ければ5秒で勝敗が決まるビーチだが、「強い選手同士が闘うと、こうなるんだな」という声も挙がった。
岡との準決勝にも勝った阿部は、決勝で井上と同じ現役バリバリの梅林と対戦。やはり一瞬での勝負とはならず、3分近い熱戦の末に振り切った。
「地元パワーですかね。マットの上と違い、砂に足が取られ(思うように動かず)、疲れますよね」と苦笑い。優勝の喜びより、厳しさから解放された喜びの方が大きい様子だ。
企業選手としての活動は終わったものの、まだ全日本選抜選手権に出るあたりは、自身も現役バリバリとも言えるが、「いや、もう第一線は終わりました。今はキッズ・クラブで週4回、少年少女選手に相手に教えているだけです」と言う。
ただ、地元という意識があり、「盛り上げようと思って参加しました」とのこと。指導している少年少女選手に対して「先生は頑張ったんだぞ、と言えるから、よかったです」とにっこり。
コロナ禍もあって3年間、開催がなかったが、「毎年やってほしいですね」と話した。今後は、12月の全日本選手権には出場資格があるかどうか分からないので(昨年の全日本選手権は5位、今年の全日本選抜選手権は7位)、出場は未定だが、「だれかに誘われれば、全国社会人オープン選手権に出て、全日本選手権を目指すかもしれませんね」と、マットでのレスリングにも、ちょっぴり色気あり!
高校選手を率いて参加したかつての恩師、鹿島学園高の高野謙二監督は「OBになり、第一線を退いても、こうして地元のレスリング界に貢献してくれることはうれしいです。鹿嶋をレスリングの町にするためにも、頑張ってほしいです」とエールを送った(関連記事)。