※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治 / 撮影=矢吹建夫)
春の選抜に続き、インターハイも優勝-。2022年インターハイ最終日(8月4日)、個人戦・男子65㎏級で細川周(京都・丹後緑風)がぶっちぎりの強さを見せつけて優勝した。試合後、細川は泣き崩れ、しばらく起き上がることができないほど勝利の余韻に浸っていた。
「学校対抗戦では思うような試合ができなかった。全国高校選抜大会で優勝して、U17アジア選手権で2位になったので、『勝たなければいけない』という意識が強かった。自分の中でインターハイは特別な大会なので、今は安心とうれしさでいっぱいです」
泣き崩れた最大の理由は、プレッシャーからの解放だった。「今日(個人戦最終日)に自分も含めチームから3人が残ったけど、ほかの2人は準々決勝で負けてしまった。それで、『自分が勝たないと』という思いが、よけい強くなりました」
丹後緑風の吉岡治監督は、細川の頑張りをねぎらった。「彼はチームのキャプテンなので、一人ですべてを背負っていた。実力的には一歩抜きん出ていたので、それをどう出すかが問題だったけど、思い切って闘っていた」
無駄な動きは極力せず、チャンスと見るや両足タックルで飛び込み、ローリングで一気に大量得点を重ねていく。それが細川の必勝パターン。今大会でもそれを貫いた。実績十分なだけに周囲からのマークはきつくなっていたが、それは百も承知だった。
吉岡監督は「実は細川は受け(ディフェンス)が強い」と打ち明ける。そのため、「今回は攻める方を課題として取り組んできた。それは、しっかりとできていた」と言う。
唯一の不安は気の迷いだった。細川は「足をちょっとけがしてしまった時期があった。それで思うように練習ができなくて、(他の選手たちから)差を詰められているいるんじゃないか、という不安がつきまとっていました」と話す。
そんな細川の気持ちの揺れを見透かしたように、決勝で見合う場面になると、正田絢子コーチから「怖がるな」というゲキが飛んだ。「細川本人は『緊張するタイプ』と言っているけど、そうじゃないことを、ずっと言い聞かせています」
「3分2ピリオドという限られた時間の中で闘うので、大半の選手は万が一攻撃に失敗したら失点を取り戻すことができないと躊躇(ちゅうちょ)してしまう。でもウチは、『取られてもいいから、攻めなさい』という指導をしています。たとえ、それで負けても、競技人生は終わりではないですから。細川は攻めたら強いので、その気持ちを忘れずに闘った方がいい」(吉岡監督)
3歳からマットに上がっているので、レスリングのキャリアは15年近くになる。「小学生のときは全然弱かったけど、中学生になってから毎日練習するようになって、ちょっとずつ勝てるようになった。それが楽しくて続けている感じです」
これから全国高校グレコローマン選手権、国体と大会が続くが、来春卒業したら大学でもレスリングを続けるつもり。細川は段階を踏みながら、最終目標に突き進もうとしている。
「自分がオリンピックを目指すと言ったら、大口をたたいているように思われる。まだその実力はない。大学生のうちに全日本選手権で優勝して、世界選手権でメダルを取ることができたら、ようやくオリンピックを口にすることができると思う」
数多くの名選手を輩出した京都の強豪チーム(以前は網野高=久美浜高と合併して丹後緑風高へ)から、またひとり期待のホープが旅立とうとしている。