※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治/撮影=矢吹建夫)
インターハイ第3日の個人戦・女子47㎏級は、昨年の大会で史上13人目の1年生チャンピオンになった大井寿々(東京・日体大桜華)が、決勝で眞柄美和(愛知・至学館)を4-1で破り、2連覇を達成した。
「今回は、事前に体調不良や濃厚接触者になったりして、練習したくても思うようにできない時期もあったので、ホッとしています」
東京都郊外にある日体大桜華は、中高一貫教育の女子校として知られ、昨年のインターハイでは大井も含めて3名が出場していた。少人数だったので、大井は「自分としては心細かった」と振り返る。「桜華では、自分の代が初めてインターハイの壇上(表彰台)に上がりました」
大会後、大井は他の部員たちと心に誓った。
「来年はみんなで出よう!」
その約束は、ほぼ守られたといっていい。決勝には大井も含めて4選手が進出し、68㎏級の星野レイも頂きを極めた。いきなり高校女子レスリング界の中で一大勢力として台頭した格好だ。大井は「去年自分が優勝したことで、みんな自信をつけてくれたみたい」と振り返る。
「私たちはほかの学校に比べたら技も少ないし、実力もまだまだ。だから、6月の関東予選(関東高校大会)は、みんな死ぬ気で頑張りました」
女子にはまだ学校対抗戦はないが、それでも大井は桜華のチームワークを強調する。「自分の優勝だけではなく、他の選手も活躍することで、他の強豪校と肩を並べることができましたからね」
攻撃といえばタックルが主流ながら、大井のファイトスタイルはツーオンワン(両腕で相手の片腕をコントロールしながら崩す技術)が基本。なぜ、そのようなスタイルで闘うようになったのか?
「(キッズ時代から師事するグロリアレスリングクラブの)伊藤克佳先生から、先生が得意とするツーオンワンを習っているからかな、と思います。小さい頃からずっと使っています」
大井は、ツーオンワンによる攻撃で高校日本一の座を二度もつかんだことになるが、一方で自分に課題を課することも忘れていない。
「もっとタックルにも入れるようにしたい。強い選手はもっとタックルに入っているし、自分もその域に少しでも近づけるように頑張っていきたい」
今後の目標を聞くと、インターハイでのV3を挙げた。その後は大学やシニアの世界で頑張ると思いきや、「レスリングをやろうとは思っていない」と本音を吐いた。「具体的にいつピリオドを打つかは未定ですけど、現時点では大会3連覇で終われたらいいなと思っています。みんなのように、『オリンピックで金メダル』みたいなことを言えたらいいんですけど、とりあえず目の前にある大会で優勝できたらいい」
父は著名な放送作家で、「THE OUTSIDER」(前田日明氏が始めたセミプロ~アマチュア選手育成のための総合格闘技大会)で王者になるなど、総合格闘家としても活躍した大井洋一さん。ただ、愛娘は父の影響というより、弟がレスリングを始めたことで自分もマットに上がるようになったと思い返す。
残り1年の高校生活で、ツーオンワンを駆使する異色の実力者は、レスラーとして完全燃焼できるのか。