※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=布施鋼治)
「負けた試合は、返ってこないぞ!」
練習中、屋比久保監督のゲキが飛んだ。7月上旬、沖縄県中部の名護市にある北部農林高レスリング部。日本最南端の県の夏らしく、ムッとした蒸し暑さを感じるが、時おり吹く海風が心地いい。
屋比久監督の指導は続く。
「練習と試合のタックルが違うぞ。試合で出せる、誰に対してもとれるタックルを練習しないといけない」
県の高校総体で6年連続通算25度の優勝を誇る屈指の強豪校。現在は男子11人、女子1人という部員数ながら、取材日には男女合わせて3人の中学生も練習に参加していた。現在は8月のインターハイでの団体戦ベスト8進出を目標に、山城快陽主将を筆頭にチーム一丸となって汗を流している。
「ウチのチームを色に例えたら、真っ赤です。いつも闘志がみなぎっている感じ。全国で勝つことを目指しているならば、そういう気持ちがないと闘えない」(山城)
今年3月の全国高校選抜大会では初戦の2回戦で館林(群馬)に競り合った末に3-4の敗北。昨年のインターハイでも足利大附(栃木)に初戦で敗れているだけに、71㎏級の長谷川晴也は「団体戦では1回戦からポイントを取って、先輩たちを引っ張るようにしたい」と話す。
全国高校選抜大会では個人戦でも初戦で敗退した65㎏級の饒波(のは)悠稀は「初めての全国大会で悔しい想いをした」と振り返る。「前に詰めてのタックルがメインとなる自分のレスリングで、団体戦でも個人戦でも勝てるように頑張りたい」
柔道出身で高校からレスリングを始めた125㎏級の高山朝光は「重量級の中では体重が軽い方なので、体重を増やさないといけない。ただ、なかなか思うようには増えない」と悩みを明かす。
「昨年までは上に3年生がいたので、自分たちが絶対勝たなければいけないという意識は低かった。自分たちが3年生になったら、どうしても勝ちにいかないといけない。責任感はだいぶついたと思います」
沖縄は、もともとレスリングの競技人口が少ない。他県に遠征するにも費用がかかるため、練習に工夫が必要だった。「先生にいろいろな技を教えてもいながら、人数が少ない中でやらないといけない」(饒波)
キッズ時代からレスリングを続けている山城は「沖縄はちびっこでも土日は高校生と練習する環境だった」と証言する。
そんな彼らにとって、沖縄県出身者として初めてオリンピックのレスリングでメダルを取った屋比久監督の息子、屋比久翔平(ALSOK)の活躍は希望の灯となった。「すごいなと思いました。憧れです」(饒波)
「自宅のテレビで見ていたけど、リフトで持ち上げて投げたシーンには感動しました」(高山)
東京オリンピックから1年、インターハイでも沖縄の底力を見せられるか。
▼主将として指導する機会も多い山城は自分の練習でもつねに全力だ
▼夏場でも扇風機と海風のみという練習場で
タイミングのいいタックルを決める71㎏級の長谷川
▼屋比久監督の目が光る中、選手たちは実戦形式のスパーリングに取り組む
▼高山に片足タックルをかけさせ、他の部員にアドバイスを送る屋比久監督