※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=粟野仁雄)
2022年の世界選手権出場をかけた明治杯全日本選抜選手権の男子フリースタイル97kg級は、石黒峻士(新日本プロレス職)が勝ち、2年連続で世界選手権の切符をつかんだ。
準決勝で新鋭の伊藤慧亮(明大)をテクニカルフォールで破って決勝へ。優勝をかけた相手は、やはり準決勝をテクニカルフォールで勝ち上がった伊藤飛未来(日体大)。初優勝した昨年の決勝と同一カードになった。
試合は、石黒がコーションなどで第1ピリオドを2-0で終えた。第2ピリオド開始早々、長身の伊藤に片足タックルを取られたが、逆にバックを取り2点追加した。その後は拮抗したが、最後は伊藤の懸命のタックルなどをかわして4-0のまま逃げ切った。
勝利を決めると応援団席に向かって両手を高々と上げて喜びを爆発させ、会見では「周りでサポートしてくれた人たちに感謝したい」と語った。
これで世界選手権(9月、セルビア)のひのき舞台に立つ。石黒は昨年10月、初出場した世界選手権(ノルウェー)では運悪く(?)東京オリンピックの覇者で、この階級の2018・19年の世界王者アブデュラシド・サデュラエフ(RWF)と1回戦で当たってしまい、0-10のテクニカルフォールで完敗した。
その後の敗者復活戦では欧州王者のベラルーシ選手を相手に善戦し、惜敗している。ただ、今年4月のアジア選手権(モンゴル)では初戦敗退を喫した。
「去年の世界選手権でベラルーシの選手とかなりやれたし、(去年の)アジア選手権は3位だったので、やれると思って力んでしまった。1点も取れなかったのが悔しくて、落ち込む時期もだいぶ長かった。でも永田監督(裕志=プロレスラー)と自分の試合展開を確認しながら(練習を)やれた」などと語り、その精かんな顔つきに自信が戻ってきている様子がうかがえた。
埼玉・花咲徳栄高~日大出身の石黒は、異色のレスラーと言える。所属する新日本プロレスの“レスリング養成機関”TEAM NEW JAPANでは、永田監督をはじめ、永田監督の弟で2000年シドニー・オリンピック銀メダリストの永田克彦さん、この階級の元全日本王者の山口剛コーチが指導している。父・哲也さんもトレーナーを務め、弟もレスリング選手(隼士=現自衛隊)と、極めて恵まれたレスリング環境にいる。
試合後のインタビューでパリ・オリンピックへの意気込みを聞かれた石黒は「日本のレスリングはなかなか重量級がオリンピックに行けない。自分が先頭に立ってオリンピックへの道を見せてあげられたらいいなと思います」と頼もしい言葉を聞かせてくれた。
石黒は、カザフスタン出身で山梨学院大学に留学し昨年の世界選手権125kg級で5位となったオレッグ・ボルチンとも仲が良い。ボルチンはいずれ新日本プロレスのリングを目指す見込み。
ただでさえ練習場所の限られているアマチュアのレスリングは、重量級はさらに練習環境が狭まってしまう。石黒はプロレス仲間や海外選手などに囲まれ、広い視野から自分のレスリングを見つめて練習できるのが強みだ。
昨年勇退した日本協会の福田富昭・現名誉会長はかつて、プロレスとアマレスの垣根を取り払い、それまでの「日本アマチュアレスリング協会」を「日本レスリング協会」と名称変更するなど大胆な改革を行なった。石黒選手はそうした改革の「申し子」ともいえるかもしれない。