※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・練習撮影=布施鋼治)
今年の世界選手権代表選考会を兼ねる明治杯全日本選抜選手権では、東京オリンピックの男子グレコローマン60㎏級で銀メダルを獲得した文田健一郎(ミキハウス)がオリンピック後、初マットを踏む。その対抗馬として、昨年の全日本王者、鈴木絢大(レスターホールディングス)の名が挙がる。日体大では文田の後輩にあたる静岡県出身の23歳は、今大会で大きな飛躍を誓う。
「パリ・オリンピックに出るためには、文田先輩に勝たないといけない。そろそろ、『自分もやれるんだぞ』というところを見せないと」
今年4月、モンゴルで行われたアジア選手権では3位に終わった。優勝を目指していただけに、「調整ミスがあった」と悔やむ。「高所での試合は初めてだったので、自分の息の上がり方に驚くしかなかった。試合が終わった直後は意外と疲れていないと思っても、アップ場に戻ったときに体がだるいと感じたり…。結局、あまりリカバリーができなかった。すごくきつかったですね」
昨年10月、初めて出場した世界選手権(ノルウェー)では3回戦まで進出して7位に入賞したが、試合間隔の短いインターバルに苦しんだ。
「他のマットと準々決勝のスタートを合わせてやるとなって、その分、休憩時間が短くなった。初めての経験だったので、いい勉強になりました」
男子グレコローマン60㎏級といえば、東京オリンピックで銀メダルを獲得した文田と2018年アジア大会で優勝している太田忍が活躍し、国内での争いが激しかった階級だ。2019年にカザフスタンで行われた世界選手権では、鈴木は文田と太田(この大会では63㎏級で出場して優勝)の練習パートナーとして現地入りした。
「あのときは、2人とも安心して見ていられるような勝ち方をして優勝しました。ずば抜けて強いと思いました」
日体大の練習では、この2人にもまれにもまれて強くなったという自負がある。
「今日はこういう取られ方をしたので、明日は同じ取られ方をしないようにしよう、という毎日。逆に、自分もちょっと工夫して取れるようになったりして、ちょっとずつだけど強くなっていったと思います」
今大会では、文田が第1シード、鈴木が第2シードと予想され、ともに順調に勝ち上がれば、決勝でぶつかり合う。文田と公式戦で闘ったことは2020年全日本選手権決勝の一度のみ。そのときは1-2で惜敗しているが、鈴木は「お互いグラウンドで返せずポイントを取れない試合内容でしたが、いい対応はできていたと思う」と振り返る。
「今回、健一郎先輩はオリンピックが終わって、まだ本調子ではないと思う。チャンスはあると思います」
鈴木が台頭するにつれ、やはり意識し合うのだろう、一緒に練習する機会は減ってきているそうだが、練習場で顔を合わせれば普通に話はする。今も2人を指導する日体大の松本慎吾監督は「鈴木が文田に実力で追いつき、お互いに高め合っていかないといけない。切磋琢磨する中で、前回のオリンピックでは果たせなかった金メダルを取ってほしい」と期待する。
鈴木といえば一本背負いが有名だが、松本監督から見ればグラウンドのローリングにも光る部分があるという。
「この前のアジア選手権もそうだったけど、ある程度の相手だったらローリングで返していける。文田との一戦になれば、スタンドの展開ではなかなか動かないと思うので、グラウンドでの勝負になると予想します」
果たして鈴木は文田との2度目の対決を実現させ、ローリングに勝機を見出すことができるのか。時代は動いている。