※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
4月19~24日にモンゴル・ウランバートルで予定されているアジア選手権の代表選手(関連記事)を含む男子グレコローマンの全日本チームが4月6日、東京・味の素トレーニングセンターで合宿を開始した。
男子グレコローマンの笹本睦ヘッドコーチ(日本オリンピック委員会)は、アジア選手権の代表に関しては、合宿の前半を最後の追い込み練習とし、後半を調整にあててモンゴルへ乗り込む意向を話した。この冬はコロナの第6波によって思うような練習ができず、3月に選手の動きを見たときは「よくないな…」と思ったそうだが、今回はかなりよくなっていると感じたと言う。
昨年のアジア選手権(カザフスタン)の男子グレコローマンは2階級(55・67kg級)で優勝し、3階級(60・72・82kg級)でメダルを取る好成績を挙げた。ここ数年の世界選手権や東京オリンピックでもメダルを取っており、日本のグレコローマンは、今では世界から注目され、研究されているのは間違いない。それでも、「研究されても、勝てるだけの強さを目指します。オリンピックは6階級ある。2階級と言わず、3階級、4階級と勝つ強さを目指したい」ときっぱり。
昨年のアジア選手権で日本の男子グレコローマン最年少王者に輝いた55kg級の塩谷優(拓大)にとっては、縁起のいい大会であり、連覇で実力をアピールしたいところ。「去年はチャレンジ精神しかなかった。今年は連覇を考えてしまうので、去年よりプレッシャーはありますね」と慎重な姿勢を持ちながらも、「自分の闘いができれば勝ちにつながっていくと思います」と、平常心を持つことを目標に置く。
昨年12月の全日本選手権では世界王者(松井謙=日体大)を破り、アジア王者より一段高い場所に手が届いているわけだが、「相手も研究してきます。去年は名前すら知られていなかったでしょうから」と気持ちを引き締める。昨年の決勝は、イルホム・バフロモフ(ウズベキスタン)相手に大技を爆発させてのテクニカルフォール勝ち。それでも、2019年アジア選手権優勝の実力者だけに、最大の強敵と見て、油断することなく挑む腹積もりだ。
今年の目標はアジア選手権の優勝ではなく、世界選手権での優勝。そのため6月の明治杯全日本選抜選手権をも見据えた練習をやっている。「アジアで勝って、(気持ちをよくして)明治杯に臨みたい」と、6月までの“計画”を話した。
合宿には、昨年の東京オリンピック60kg級銀メダルの文田健一郎(ミキハウス)も参加した。オリンピックのあと、約3ヶ月間、休養した。「レスリングをやってから初めて」という“ブランク”だそうだが、11月頃には練習を再開。徐々にペースを上げてきたという。
オリンピックでは「これ以上はないというほど心身を高めた」。それゆえ、まだその段階まではいっていないが、「アジア選手権に出る選手をアシストしながら、さらに高めていきたい」とのこと。日本選手が好成績を挙げれば、嫌でも気持ちは高まるだろうし、先週、ハンガリーで行われた欧州選手権はネット中継で見ており、「世界は(パリ・オリンピックへ向けて)動き出していることを感じますね」と話す。刺激材料は多くある。
私生活では、夢だった高級外車を購入した。金額は「想像に任せます」と笑うが、見栄や贅沢(ぜいたく)からではなく、レスリングの今後を考えての意味もある。レスリングは「金を稼げないスポーツ」の部類に入っており、強くても極貧生活を余儀なくされる場合も多かった。それでは若者に夢を与えられない。「頑張れば、こんなことができる、ということを示したいんです」-。
レスリングのステータスを上げるには、こうした行動も必要だろう。強烈な“一流意識”を持ち、パリ・オリンピックへの道が本格スタートしている。
合宿は14日まで行われ、15日にアジア選手権代表チームがウランバートルへ向かう。