※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治 / 撮影=保高幸子)
2022年全国高校選抜大会の個人戦60㎏級は、65kg級から階級を下げた須田宝(佐賀・鳥栖工)が制した。
「この大会にかけていたので、優勝できてうれしい」
事実上の決勝戦は西内悠人(高知・高知南)との準々決勝だった。西内は昨年の55㎏級優勝者。2019年全国中学生選手権52kg級決勝でも顔を合わせている両者の対戦は、息詰まるハイレベルな攻防を繰り広げた末、須田が5-1で勝ち、2階級制覇を狙う西内を下した。
「試合前、小柴健二監督からは『ここが勝負だ』という言葉をかけられました」
西内のことは強く意識した存在だった。「(西内選手は)高校の全国大会で一度も負けていない。連覇もかかっていた。自分がそれを止めようと思いました。西内戦だけは勝とうと思いました」
個人戦の組み合わせが決まると、西内と準々決勝で闘うことを想定した。
「対策という対策は練っていないけど、気をつけるべきところはミスしないようにやろうと心がけました」
須田の得意技は相手の力を利用しての“振り”。そしてサイドへのタックルやアンクルホールド。西内戦では第1ピリオド開始早々、ケンカ四つの体勢から西内をサイドに振って背後に回り、早々にポイントを奪う。その直後には、得点にこそ結びつかなかったが、アンクルホールドも狙うなど、積極的な攻撃が目立った。
「自分の持ち味は攻めるレスリングだと思っています」
西内には中学時代の優勝をかけた対戦(前述)でも勝利を収めている。須田にとってはライバルというべき存在。
「最大の勝因はやっぱり気持ちでしたかね」
小岩皆人(千葉・日体大柏)との決勝は相手のタックルを切ってのカウンターやアンクルホールドでポイントを積み重ね、終わってみれば10-0のテクニカルフォールで完勝した。
「絶対ヘマはできない。自分のレスリングをしっかりしようと決めてから挑みました」
とはいえ、すべてが順風満帆だったとは言い難い。鳥栖工は学校対抗戦で2連覇を狙っていたが、花咲徳栄(埼玉)との初戦の2回戦で、3-4でまさかの敗退を喫してしまった。須田は60㎏級で佐々木力人に10-0で圧勝したが、チームに暗いムードが漂ったことは否定できない。それでも、ネガティブな空気を引きずることはなかったという。
「個人戦が残っているし、疲れも残っていない。気持ちをすぐに切り換えようと思いました」
4月からは3年生になる。高校生活の集大成としての目標ははっきりしている。
「このあと、JOC杯、インターハイ、国体と続く。この勢いで4冠制覇を狙いたい」
レスリングは長崎県で小学1年生から始めた。「中学を卒業してから(隣県である佐賀県の)鳥栖にやってきた感じですね。キャリアは…(頭で数えながら)もう11年になります」
個人戦では、チームメートの甫木元起も92㎏級で優勝している。学校対抗戦では不覚を喫しても、強さは見せた。鳥栖工の強さの源を聞くと、「練習しかない」と語気を強めた。「朝練は7時から8時まで。午後練は4時から6時半まで。鳥栖工の練習は、短い時間できっちりやるのがモットーです」
進学先は未定ながら、大学に進学してからもレスリングは続けるつもりだ。「大学では61㎏級からのスタートになると思います。フリースタイルでオリンピックを狙いたい」
技術に気持ちを掛け合わせた攻めのレスリングで頂きを目指せ。