※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=布施鋼治)
全試合無失点&テクニカルフォール勝ち。2021年世界選手権第5日(10月6日)、女子53㎏級の藤波朱理(三重・いなべ総合学園高)が無失点の“完全優勝”を果たした。シニアの国際大会には今回が初出場だったが、決勝でも欧州選手権3位のイウリア・レオルダ(モルドバ)を相手にワンサイドゲーム。第1ピリオド2分15秒、10-0のスコアで撃破した。
試合後、どの試合が印象に残っているかと聞くと、藤波はハキハキと答えた。
「今回は本当に全部初めての経験だったので、どの試合も印象に残っています。この舞台で闘えることは幸せだと思いました。これから何回も闘い、勝ち続けたい」
2017年10月、中学2年生のときに出場した全日本女子オープン選手権から無敗の快進撃を続け、今大会を含めて現在まで83連勝。大会前から優勝候補に挙げられていたのもうなずける。
そうした周囲の期待から、過度なプレッシャーを感じていたかとも思われるが、当の藤波は「決勝も楽しんで闘えました」と言ってのけた。「無失点というのはあまり意識していなかった。自分から攻めることを意識して闘ったことが勝因だと思います」
高校生での世界選手権優勝は山本美憂、正田絢子、伊調馨、須﨑優衣に続き日本で5人目の快挙だった。歴代のチャンピオンたちと肩を並べたことになるが、17歳という年齢や若さだけをクローズアップされることには多少抵抗を感じているようだった。
そこに、4歳から真摯にこの競技に打ち込んでいる藤波のプライドが見え隠れする。「今までレスリングに懸けてきた思いや、レスリングをとことん考えてきた時間は(社会人や大学の選手と比べても)劣ってない」
その一方で「優勝した喜びを誰に伝えたいか?」という質問をすると、藤波は素の17歳に戻った。「お父さんとお母さんとお兄ちゃん。一番そばで応援してくれました。地元いなべでいつも応援してくれる人、みんなにも金メダルを取れたことを伝えたい」
決勝前には地元から思わぬメッセージも届き、奮起するきっかけにもなった。
「クラスメートみんなで『頑張れ』と応援してくれる動画を担任の先生から送ってもらいました。本当にうれしかった。余計に頑張らなければと思いました」
次戦は12月の全日本選手権。連覇を目指す。もちろん、その先には2024年のパリ・オリンピックを見据えている。そのためには、国内で東京オリンピック53㎏級金メダリストになった向田真優(ジェイテクト)との対決は避けられない。
近い将来、必ず実現すると思われるオリンピックと世界選手権の金メダリスト同士の一騎討ちについて水を向けると、藤波は語気を強めた。「向田選手は本当に強くて昔から憧れの選手だった。でも、パリに行くのは絶対私。そういう気持ちを持って闘いたい」
17歳が描く明るい未来。怪物ルーキーの挑戦は続く。