※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・写真=布施鋼治)
女子50㎏級といえば、東京オリンピックで須﨑優衣(早大)が金メダルを取った階級。国内では世界選手権優勝の須﨑、アジア選手権優勝の入江ゆき(自衛隊)、2016年リオデジャネイロ・オリンピック48kg級金メダリストの登坂絵莉(東新住建)が三つ巴で争う超激戦区として知られていた。
そんな階級に新星が誕生した。ノルウェー・オスロで開催された2021年世界選手権・第5日(10月6日)に金メダルを取った吉元玲美那(至学館大)だ。東京オリンピックの代表選考では先の3名の影に隠れがちだったが、昨年12月の全日本選手権と今年5月の全日本選抜選手権で優勝して世界選手権の出場切符をつかんだ。
それまでの吉元の戦績を振り返ってみると、キャリアを積み重ねるにつれ、少しずつ爪痕を残していることがわかる。2019年12月の全日本選手権では、ビッグ3とともにベスト4に進出。入江に1-4で敗れた。同年4月のジュニアクイーンズカップ決勝では、須﨑を相手に結果的に敗れはしたものの、1-2という接戦を演じた。
ここ1年での成長ぶりを見せつけるかのように、今大会では準決勝までは4試合連続テクニカルフォール勝ち。日本チームを牽引する原動力になった。
決勝では、東京オリンピック3位のサラ・ヒルデブラント(米国)と激突。第1ピリオドは2-3とビハインドを許した。吉元は「準決勝までは無失点で勝ち上がれたけど、決勝はそんなに簡単にはいかなかった」と振り返る。「グランドもしっかり対策されていて、返せなかった」
それでも、体力には自信があった。
「なので、どんな流れでもポイントを取り返そうと冷静に考えていました」
案の定、第2ピリオドになると反撃を開始。まずは場外に押し出して3-3のイーブンに。片足を取られてもテークダウンを許さないヒルデブラントの粘りに対し、時間をかけて崩して背中をつけさせた。この攻撃によって吉元は5-3と逆転に成功した。
吉元はオリンピックで活躍した大学の先輩たちのサポートに感謝する。
「(川井)梨紗子さん、友香子さん、絵莉さん、(土性)沙羅さん…。たくさんの先輩たちからアドバイスをいただきました。技術の面では梨紗子さんと友香子さんにお世話になっていて、タックルに入ってからのグラウンドでの処理を教えていただきました。今回はそれを試合でいかせる部分が多かった。少しは恩返しできたのかなと思います」
ポイントをリードされている展開では、「何のためにオスロまで来たのか」と自分自身に問いかけた。「最後まで諦めないということを意識して闘いました。チャンスをモノにできてよかったです」
しかし、いつまでも喜びに浸っているわけにはいかない。2024年パリ・オリンピックの代表選考になれば、須﨑との3度目の対戦は避けられない(1度目は2018年ジュニアクイーンズカップでテクニカルフォール負け、2度目は前述)。「いつかは須﨑選手ともう一度当たると思うので、体力だけではなく、技術面を磨いたうえで、気持ちをもっと強くしたい」
もう“第4の女”とは呼ばせない。