※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=布施鋼治)
「いつも通りのレスリングをしようと思ってマットに上がりました。自分のレスリングをやり切れた感じです」
ノルウェーの首都オスロで開催された世界選手権・第4日(10月5日)、女子55㎏級決勝では。櫻井つぐみ(育英大)が決勝でニナ・ヘマー(ドイツ)を第1ピリオドにテクニカルフォールで下し、初めての世界選手権で初優勝を果たした。
「今回のような大きなシニアの舞台で闘うのは初めて。決勝は緊張もしました」
ヘマーは昨年12月の個人戦ワールドカップ3位など実績のある選手なのに対し、櫻井が出場したシニアの国際大会といえば、昨年1月の「クリッパン女子国際大会」(スウェーデン)のみ。今大会では、ほぼノーマークだったのではないだろうか。だったら、それはそれで伸び伸びと闘いやすい。
案の定、櫻井は十八番の腕取りを武器に順調に勝ち上がっていく。準決勝ではロクサナ・マルテ・ザシナ(ポーランド)、準々決勝ではオルガ・ホロシャフツェワ(RWF=ロシア・レスリング連盟)という2人の東京オリンピック出場選手を破ったことは大きい。櫻井は「いずれも楽な試合ではなかった」と振り返る。
「それでも、最後まで集中して6分間をしっかり闘い、苦しいときでも点数をやらずに最後まで勝ち切るという粘りのレスリングをすることができたと思う」
セコンドに就いた吉村祥子コーチ(エステティックTBC)は「櫻井は、日本人の中では珍しく、腕取りなど上半身の展開を得意とするタイプ」と評した。
「どちらかといえば、海外にいるタイプに似ている。試合前はそういうスタイルで勝ち切れるのか、という思いもあった」
ただ、海外にいる似たタイプとは決定的に違う点もあると指摘する。「腕取りからタックルまでの展開に持っていける」
最初からそうだったわけではない。昨年12月の全日本選手権に出たときには。ひたすら腕取りにこだわったうえでの優勝だった。
「今回はそこからタックルにつなげることができていた。今までの日本人とは違う勝ちスタイルを実践することができたのではないでしょうか」
櫻井が在籍する育英大からは、初めての出場で初めての世界チャンピオン誕生だった。時差の関係で、インターネットによるライブ中継は日本時間の深夜だったが、櫻井は「それでもたくさんの人たちが起きており、応援してくれた。恵まれた環境に置かれたうえで、ここまで来られた気がします」と感謝する。
最大の勝因を聞くと、櫻井は「自信を持ってマットに上がれたこと」と即答した。「この大会で優勝するためにたくさん練習してきましたから」
初めてノルウェーにやってきたオカッパ頭の大学生は、いつになく饒舌だった。まだ階級を上げるか下げるかは決めていないが、日本人としてONLY ONEの闘い方でパリを目指すか。