※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治)
「緊張はあまりしていません。しっかり準備して、いい結果を残せるようにしたい」
9月上旬、横浜市青葉台の日体大レスリング部を訪ねると、10月2日からノルウェーで開催される世界選手権の男子グレコローマン55㎏級に出場する松井謙(日体大)は、カウントダウンに入った調整に余念がなかった。
国際大会出場は4度目。2017年世界カデット選手権ではグレコローマン50㎏級で見事に優勝。日体大進学後に出場した2019年世界ジュニア選手権は、55㎏級で3位に輝いている。
すでに海外でも実績を残している立場ながら、松井は自らの課題を厳しく考えている。「世界ジュニア選手権の準決勝で対戦した相手は、世界カデットでもやったことがある選手でした。カデットで勝っていた相手に負けてしまい、内容もあまりよくなかった。もっとしっかり練習しないといけないと思いました」
松井は経験者であった父親の薦めで、4歳からレスリングを始めた“若きベテラン”。すでにキャリアは15年を超える。レスリングは自分に合っているスポーツだと思うか、と水を向けると、松井は「合っているかどうかは…」と口を濁した。
「もしレスリングをやっていなかったら、少なくとも自分から格闘技系はやっていなかったと思います。球技? いや、それもやっていなかったでしょう。そもそも、あまり運動は得意ではないので」
身体能力の方は? 「スポーツテストの成績はよくないし、足もそんなに速くないんですよ」
それでも、高校時代から国際大会に出場しているのだから、何かしら飛び抜けた才能があるのではないか。長所を問うと、松井は照れながら「気合ですかね」と答えた。
「自分の長所は我慢強いところかと」
岐阜・中京学院大中京高3年のときには、シニアの全日本選手権に初出場で決勝進出という快挙を成し遂げた。それでも、松井は「組み合わせがよかったから」と冷静に振り返る。「強い選手は反対の山に固まっている感じだったんですよ。それで、僕は運よく決勝まで行けた感じだった」
今年5月の明治杯全日本選抜選手権では初優勝を果たすも、試合後には「一番手(2018年の全日本決勝を争った片桐大夢)や二番手(4月のアジア選手権で、日本男子史上最年少で優勝した塩谷優=拓大)が出ていなかったので」と、謙虚に答えていたのが印象的だった。
「(強豪がいなかったので)明治杯は絶対に勝たなければいけないと思っていました。12月の天皇杯(全日本選手権)では塩谷選手と当たると思うので、しっかり勝ちたい」
その前の世界選手権で実績を残し、しっかりと先手を打ちたいところ。松井は「まだシニアの世界で自分がどのくらいの位置にいるのか全然分からない」と語る一方で、「それでも後悔のないように、出せるものは全部出して、メダルを取りに行く」と意欲を見せた。
日体大の松本慎吾監督は「そう甘くはない」と前置きしつつ、「松井は世界ジュニア選手権で3位になっている。シニアの大会でどれだけ力を示せるか。正直、世界の55㎏級と比べると、体力的な部分は劣っていると思う。自分の力を100パーセント出しながら、1試合ごと挑んでいってもらいたい」」と期待を寄せる。
胃腸は強くないので、現地での食事は日本から持ち込む日本食に頼るつもり。「減量が終わったら、普通にオニギリを食べたい」
日本米をパワーに、初めてのシニアの世界選手権で爪痕を残すことができるか。