※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)
「いい勝負を見ることができた。ウチのチームとしては素晴らしい成長だったと思います」
2021年インターハイ初日(8月21日)、学校対抗戦2回戦で鳥栖工(佐賀)に2-5で敗れた韮崎工(山梨)の文田敏郎監督は教え子たちをねぎらった。
「鳥栖工業さんは今年の全国選抜大会のチャンピオン。強いチームであることは最初から分かっていた。どれだけできるかと思いながら、闘っていました」
ふたを開けてみると、65㎏級の本名一晟と71㎏級の長谷川虎次郎が勝利。続く80㎏級の島袋希理瑠も試合終了直前までリードを奪うなど、接戦を演じた。結局、80㎏級は鳥栖工の片田皓之が逆転勝利をおさめたが、同校の小柴健二監督はラッキーな勝利だったことを否定しない。「ラストは相手のミスでポイントを取って勝つことができた。相手選手が最後に無理に技を仕掛けてこなければ、次の125㎏級での勝負になっていたと思う」
文田監督も「あそこで勝っていれば…」と少々悔やんだが、当事者を責めることはなく、むしろ褒め讃えた。「71㎏級の長谷川もそうだけど、島袋も体重が足りていなかった。試合前から肩も痛めていましたからね」
2年ぶりのインターハイ。文田監督は昨年の大会に出場できなかった当時の3年生の気持ちを慮(おもんばか)った。「3人いたけど、本当にかわいそうだった。彼らは2年生のときにインターハイに出て、個人戦ではいずれもメダルを取っていた。3人とも大学に進学してレスリングを続けてくれたことが救い」
東京オリンピックの男子グレコローマン60㎏級に出場した息子・健一郎(現ミキハウス)の活躍は、学校で、生徒だけではなく校長や職員とともにテレビ観戦したという。文田監督は「(銀メダルだったことで)ちょっと残念だったけど、本人が一番悔しい思いをしているでしょう」と振り返った。
「ただ、ああいう場面(日本代表の決勝進出)を目の当たりにしたら、子供たちも感じる部分があったと思う。健一郎もロンドン大会を見てオリンピックへの気持ちが高まったみたいなので、その思いを韮崎の後輩にまたつないでくれたと思いたい」
来春、文田監督は60歳で定年を迎える。「でも、再任用でもう少し子供たちとも頑張ることができそうです」
最終的に韮崎工は今大会で初優勝を遂げた鳥栖工を最も苦しめた。この事実は韮崎工にとって大きな自信になったはず。それを次期チームにつなげ、さらに強固なチーム作りを目指したい。