※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治)
「オリンピックが近づいてきた実感? 私は、試合前はいつも緊張するタイプなので、そっち(緊張)の方が大きいですね」
1年前と比べると、体つきが格段にたくましくなった女子62kg級代表の川井友香子(ジャパンビバレッジ)は、そう話した。そろって東京オリンピックに出場する姉の梨紗子(同=57kg級)は「友香子にとっては、オリンピックが1年延期になって本当によかったと思う」と目を細める。
「明らかに見た目が変わりましたから。力がついた分、技は決まりやすくなったと思う。(場面によっては)力で持っていけたりするんじゃないかと思う。ポイントも多く取れるようになったんじゃないですかね」
新型コロナウイルスの影響で、予定されていた大会は相次いで中止に。川井は試す場に出ることなく、初めてのオリンピック本番を迎えることになった。
4月に出場予定だったカザフスタンでのアジア選手権は、離日当日になって出場予定選手の中に感染者と濃厚接触した疑いのある者が出たため、急きょ取りやめになった。ショックがないといったら、うそになる。しかしながら、今は「行けなくなってしまったことは仕方のないこと」ととらえている。
「本当は(外国人選手と)試合をしたかったけど、なかったらなかったで、自分のレスリングはオリンピック本番までばれない。その点はよかったのかな、と」
昔は国際試合でパワーの差を痛感することが多かった。2019年の世界選手権に出場したときには、対戦相手の押しに耐えられず、そのまま場外に出されてしまったこともある。「そのときから考えると、自分の足でしっかり立ってレスリングができるようになったと思います」
この1年で、テクニック面では組み手を徹底的に強化した。「やっぱり、梨紗子は本当に組み手が強い。梨紗子のレスリングを見ているうちに、試合ではタックルに入る前の組み手が大事なんじゃないかと思ったので、そこを強化したいと思いました」
組み手をさほど意識していなかったころには、外側から組むことも多かった。「最近は、ちゃんと相手の内側から組んで、前にプレッシャーをかけながら攻めることができるようになりました」
上手を取れるようになったのは、周囲のコーチがしつこく指摘してくれたおかげだと言う。「それで正しい組み方の意識づけができるようになったと思います」
自身のレスリングスタイルを問うと、川井は「特徴のないレスリング」と自嘲気味に答えたが、その一方で「今までみたいに海外勢に力で負けるようなことはない」と自信をのぞかせる。最大の好敵手として、周囲は2019年世界チャンピオンで、過去に通算4度もアジアの女王になっているアイスルー・チニベコワ(キルギス)を挙げるが、川井は同じ階級に出場する全ての選手と考えている。
「非(オリンピック)階級からも集まってくるので、ホントに全員が強い。厳しい闘いになると思うけど、自分も本当にハードな練習をたくさんしてきた。そういう練習の成果を出し切る大会にしたい。しっかりと出し切れば、絶対勝てると思っている」
幕張のマットで、我々は今まで見たことがない新生・川井友香子の姿を目の当たりにするのだろうか。