※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=布施鋼治)
3試合を勝ち抜き、敢闘賞も受賞した曽根敬次郎(専大)
6月23日、東京・駒沢体育館で開幕した東日本学生選手権。新人戦のグレコローマン60㎏級では日本でも指折りのパワースポットとして有名な神社で宮司(ぐうじ=神職や巫女をまとめる神社の長)になる予定の異色のレスラーが優勝し、敢闘賞を受賞した。
専修2年の曽根敬次郎だ。
「初戦からあまり動きはよくなかった。点数を取られたら、取り返して勝つみたいな試合を続けてしまった」
準決勝では穴田禅侍(法大)に俵返しを決められリードを許すが、それから逆転。11-8で勝利を収め勝負強さを見せつけた。曽根は反省することも忘れない。
「大学では組み手を中心にやっているけど、それが全く出せなかった。すぐ組んで投げるような、いつもとは違う動きをしてしまった」
決勝は三井潤(明大)と対戦。それまでの試合同様、この試合でも曽根は場外押し出しで先制点を許すが、パッシブでポイントをすぐ取り返す。続いて場外際で俵返しを決めて5-1へ。第2ピリオドも2点を加え、7-2で最後まで勝負を諦めない三井を振り切った。
三井潤(明大)との決勝は7ー2で勝利
「優勝できて、ホッとしています」
新型コロナウイルスの影響で大学の大会は中止が相次ぎ、昨年は秋の新人戦に出場しただけに止まった。「その大会では2位。今回は大学生になってから2回目の大会でした」
成長できた、最大の要因は?
「先輩たちが日本でもトップレベル。そんな方々の胸を借りてスパーリングをしっかりできたことだと思います」
中でも、同じ階級で大学の先輩にあたる2017年U23世界選手権優勝の河名真寿斗(3月までクリナップ=現ロータス世田谷所属のMMA選手)とのスパーリングは実力向上の源になったと感じている。「たまにポイントを取れることもあるけど、練習ではまだ全然勝てません。早く追いつけるようにしたい」
長野県軽井沢出身で、父は日本三大熊野のひとつで群馬県との境にある熊野皇大神社の神主だという。曽根も現役生活を退いたら、親の跡を継ぎ宮司になるつもりだ。
決勝では俵返しも爆発!
「小1から中3まで柔道をやっていていました。レスリングは、柔道でもっと強くなるために小3から始めました。でも、中3のときにレスリングの試合で負けて悔しい思いをした。そのとき、自分にはレスリングの方が合っているのではないかと思い、高校からはレスリングに専念するようになりました」
グレコローマンを選択した理由を聞くと、曽根は「柔道をやっていた影響が大きい」と分析した。「グレコローマンには投げが多い。だったら、柔道で身につけた投げをいかせるんじゃないかと思いました。高校ではフリースタイル主体にやっていたけど、高3のときの全グレ(全国高校生グレコローマン選手権)からグレコローマンの試合に出るようになりました」
次は8月開催の全日本学生選手権(インカレ)。もちろん優勝を狙いますよね、と水を向けると、曽根は声のトーンを急に低くして「まだ優勝とはいえない」とつぶやいた。「まずは3位を目指して頑張ります。12月の全日本選手権では、とりあえず1勝することを目指したい」
得意技は、そり投げ。「今回はあまり決めることができなかったけど、インカレではグラウンドでの俵返しとともに出したい」
着実に、一歩一歩ずつ。曽根はレスリング・マットをもうひとつのパワースポットにできるか。