※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【アルマトイ(カザフスタン)、文・撮影=布施鋼治】「人生を賭け、何が何でもオリンピックの出場切符をとりたい」-。
決戦2日前の4月8日、カザフスタン最大の都市アルマトイ。東京オリンピック・アジア予選の会場横にあるアイスホッケー場内の特設アップ場で、女子50kg級に出場する須﨑優衣(早大)は強い口調で宣言した。
大会本部からの要請により、直前になって現地入りが2日早まり、4月6日到着に変更された。問題はなかったのか。須﨑を長年指導する吉村祥子コーチ(エステティックTBC)は「正直、現地での調整はいつも通りのパターンでいきたかった」と打ち明ける。
「ただ、本当にこの舞台で(オリンピックの出場枠を獲得するという目的を)実現するために必要なことだと思えば、それはそれで、すんなり受け入れることができた。来てみなければ分からないことも、実際に来てこそ分かる。衛生面はすごくいいので、滞在することで感染の不安やいらだちはない」
須﨑にとってカザフスタンのマットに立つのは今回が初めてながら、充実した最終調整ができている様子。直前になって、諸事情によって練習パートナーは現地入りできなくなってしまったが、女子の笹山秀雄監督(自衛隊)や吉村コーチが相手をする形で、現地入りした当日(6日)の夕方から最終調整に努めた。
「カザフスタンは過ごしやすい気候で、ホテルのご飯も美味しい。とても快適に過ごしています」
新型コロナウイルスの感染対策として、各国の選手団の活動範囲は宿泊するホテルと練習場のみ。近隣のスーパーマーケットやレストランに行く行為は一切許されていない。とはいえ、そういった滞在は2017年にインド・ニューデリーで開催されたアジア選手権で経験済みだ。
「インドのときも、こんなバブルみたいな生活だったので慣れています。空いている時間は本を読んだり、試合映像を見たり、サウナに行ったり、身体のケアをしてもらって過ごせています」
今回の女子50㎏級は、エントリー選手数の関係で、総当たりリーグ戦で行なわれることになった。リーグ戦は初めての経験ながら、須﨑は一切不安を感じていない。「自分は体力に自信がある。1試合1試合、しっかりとその体力を武器に勝ち抜いていきたい」
オリンピックで金メダルという、子供の頃から夢を実現させるための最後の関門を突破できるか。