※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治、撮影=保高幸子)
学校対抗戦には出場できなかった埼玉・埼玉栄勢が個人戦では大活躍! 風間杯全国高校選抜大会の個人対抗戦では65㎏級の荻野海志と80㎏級の五十嵐文彌が揃って優勝し、ともに大会2連覇を達成した。
昨年の同大会では60㎏級で優勝した荻野は、今大会は65㎏級にエントリー。準決勝では藤澤汰陽(福岡・小倉商)をテクニカルフォールで下して決勝に進出した。もう一方のブロックから勝ち上がってきたのは“宿敵”髙橋海大(東京・帝京/JOCエリートアカデミー)。
「髙橋選手には、1年生のときの関東高校大会と関東高校選抜大会で負けている。だから絶対に負けないという気持ちで挑みました」
高校では今回で3度目となる対決だったが、実は両者はキッズ時代から何度も闘っている間柄。試合直前、荻野がテーピング用のテープを忘れたことが発覚すると、髙橋は自分のテープを当たり前のように荻野にトスした。「幼稚園からやっているので、たぶん30回くらいやっている。幼稚園と小学校時代は何回か僕が勝っているけど、あとは全部負けている。だからこそ勝ちたいという思いはいっそう強かった」(荻野)
お互い手の内は知り尽くしているだけに第1ピリオド序盤から試合は白熱。荻野のローリングを髙橋がブリッジしてしのごうとすると、無観客試合ながら、場内(選手席)はどよめいた。
試合は荻野が第1ピリオド、6点をリード。第2ピリオドになると、髙橋も追い上げ、ラスト15秒の時点で4-6へ。その刹那、髙橋は場外ポイントで5-6まで差を縮めたが、そこでタイムアップ。荻野が逃げ切る形で、高校生になってから髙橋にうれしい初勝利をおさめた。
勝因のひとつとして荻野は個人戦にフォーカスできたことをあげた。「前回は団体戦も出て2位だった。最後まで団体戦に残ったうえでの個人戦はすごく疲れる。今回は(団体戦がないという)アドバンテージがあった分、個人戦に集中できたと思う」
80kg級の五十嵐は、チームメートの荻野が優勝したことで、いい刺激をもらったと言う。「かいじ(荻野)が優勝していなければ、自分も負けていたかもしれない。いいバトンを渡してもらえました」
初戦となる2回戦から3試合連続無失点のテクニカルフォール勝ち。準決勝では高原崇陽(岐阜・高山西)を4-1で撃破して決勝に進出した。もう一方のブロックからは城所拓馬(群馬・太田)が上がってくると予想したが、準々決勝で敗北した。
城所に黒星をつけたのは、決勝まで進出してきた神谷龍之介(三重・いなべ総合学園)。予想外の組み合わせだったので、五十嵐は「対策は全然立てていなかった」と打ち明ける。「軽量級から上がってきた選手で、一度も対戦したことがなかった」
階級を上げてきた選手なので、「勝って当たりまえ」と思われる立場であることのほか、自分が2年生で、神谷がまだ1年生ということもプレッシャーになった。
「年下はメチャクチャ怖くて」
案の定、実際に対峙してみると、五十嵐は「すごくやりづらかった」と吐露した。「組み手がうまかった。組み手だけだったら、全然かなわなかった」
組み手では劣っていても、カウンターのテクニックには1日の長がある。五十嵐は自ら下がってからのタックルでテークダウンを奪って2点を先制する。さらに相手のタックルを切ってから回り込んで2点を加点。
その後、失点する場面もあったが、カウンターがさえ渡り、最後は14-3のテクニカルフォール勝ち。左構えの対戦相手の対策を立てていたことも勝因と振り返った。
「71㎏級で3位に入賞した(同門の)林拳進も左なので、そっちの構えの人との闘いに慣れていた。試合映像を見返さないと何とも言えないけど、(相手のフェイントに)反応はできていたかと思います」
そしてこんな本音も。「荻野だけではなく、林と3人で優勝したかった」
チームメート思いの五十嵐は「自分の弱さを認めて、もっと強くなりたい」と足元を見つめた。「まだそんなレベルではないけど、出られるなら、天皇杯(全日本選手権)で強い社会人や大学生の選手に当たっていきたい」
今夏のインターハイまでに、伸びしろだらけの埼玉栄勢はどこまで成長しているのか。