※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
――館林でのインターハイが流れたことは、とても残念だったのではないでしょうか。
小幡 今年9月、正式に指導を始めて10年経つ区切りで、コーチもOB会長も辞める予定です。それだけに残念ですが、この状態では、どうしようもないと思います。
――マット生活もピリオドですか?
小幡 指導を手がけた今の1年生が卒業するまであと2年あります。そこまでは責任を果たしたい。もう指導はしませんが、激励しに週2回くらいは顔を出そうかな、と思っています。
――約10年前、久しぶりにマットに戻られまして、以前の選手と今の選手の気質の違いなどは感じられましたか?
小幡 今の子は、いい子ばかりですね。間違ったことをする子はいないし、ずる休みもしない(笑)。昔は、乱暴者も多くいました。それだけ、強かったですけどね(笑)。
――ずる休みする選手もいたのですか?
小幡 いましたよ(笑)。今の子は、本当にいい子ばかりです。
――時代の流れでしょう。けんかも、ちょっとした非行も、許されない時代になっています。こういう時代に、強い選手を育てるには、どうすればいいのでしょうか。
小幡 レスリングに取り組めるのは10年くらいです。キッズが盛んになっていますが、本気になってレスリングに取り組めるのは10年ですよ。その青春時代に、レスリングを自分の人生の中でどんな位置づけに置くかにかかっていると思います。他のことを犠牲にしてレスリングにどの程度集中できるかどうか、集中させられるかどうか、が問題だと思います。
――指導者がちょっと厳しいことを言うと、「パワハラ」と言われ、訴えられてしまう時代です。指導者にとって、大変な時代になっています。
小幡 (訴えられることを)怖がっては駄目です。一生懸命に教え、熱が入れば、語気も強まります。昔は手も出ました。一生懸命にやれば、そうなることもあったと思います。今は駄目ですが。
――さぼっている選手に、「何やってんだ! 出て行け!」という怒鳴り声をあげることすらできないようなムードです。
小幡 そんな馬鹿な話はないです。いじめとしか言いようのない、怨念を持って怒鳴ったり、たたいたりするのは論外ですが、一生懸命な指導の中でのことなら当然のこと。怖がってはいけない。厳しい叱責すら駄目、というのなら、「私には指導する自信がないので、抜けてください」と、事前に保護者に了解をもらうべきでしょう。
――アメリカでのコーチの指導は、どんなものでしょうか。
小幡 たたく、ということはなかったですが、怒鳴ることは多々ありました。まあ、あまり厳しいことは言いませんよ。「そうじゃないだろう!」と言うくらいで、それ以上の叱責はないです。選手は自主的にやっていますから。
――ブラジルのサッカーは、コーチは駄目な選手は相手にしないので、叱責することはなく、パワハラなんてありえない、と言われています。
小幡 米国のレスリングでも同じです。奨学金がからんでいるので、成績が上がらないと、自費で大学に通うか、金が続かなければ辞めるしかないんです。有望な選手のみ、奨学金がもらえ、コーチも指導するという実力社会です。勝負の世界では当然なこと。選手も、コーチに引き上げてもらうのではなく、自分で成績を出さなければならないことを分かっています(だから自主的に練習する)。
――日本は、そうはならないですね。どんな選手でも引き上げてやろうと思う。そうすると厳しい指導にもなってくる。
小幡 パワハラで処分を受けた人もいますが、本当にパワハラの指導だったのかどうか、私には分かりません。現場を見て、いろいろ聞いてみないと分からないからです。怒る時に気をつけないといけないのは確かですが、選手がいい加減な練習をやっていたかもしれない。指導者が明らかに悪い、という場合もあるでしょう。
――アメリカでは選手ファーストが徹底していて、試合に負けると、選手がコーチに対して「ユーの指示通りに闘ったら負けた」と言うケースもある、と聞いたことがあります。本当でしょうか?
小幡 私のいた大学では、試合に負けたことでコーチがつるし上げを受けたなんてことは、見たことも聞いたこともないです(笑)。他の大学からも、そんな話は伝わらなかったです。選手は、名コーチを頼って大学へ行くのが普通で、信頼し、尊敬しています。ですから、厳しいことを言われても、訴えることなんてないですね。
――来年の東京オリンピックは、会場に行かれるのでしょうか。
小幡 混み合いますから行きません。テレビで応援しています。